この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第4巻収録。荒稼ぎと急ぎ働きで名を売った盗賊・小金井の万五郎。彼が死の床で、妻のおけいに明かした隠し金千両の在り処。「ある人間を連れてきてくれたら、五百両をやる」と言われ、おけいは信州へと旅立つ。次話「麻布ねずみ坂」を先に読んでおくのも一興。
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悪人と善人と死に際と
年の暮れから大晦日、正月にかけて起こったことを描いた、盗みの話も具体的には出てこない短い話だ。しかしそう思って本当に正月に読んでしまえば、新年早々どこかどんより重たい気持ちになる話だ。
急ぎ盗を常とし、人を殺すのもいとわず、最後には多くの部下も手にかけた悪党が土まみれであげた断末魔、ただの農家の娘に魔が差した瞬間の表情、悪党とともに歩んだ男の大往生。
ラストシーン、見開きで並ぶ三者の姿は正月に見るにはあまりにも人間臭く、重すぎる。平蔵が空気を和ますように肩が凝ったと首を回してみせるのに心からホッとする。
須川の利吉と小金井の万五郎の差
須川の利吉については作中で詳細な人物像が語られることがない。しかし万五郎とともに仲間たちを皆殺しにしたような男だし、万五郎いわく「おけいを抱き込み、あの千両を我がものにしかねねえやつだっ!!」というような人柄だからおおよそは察せられる。
ただ、万五郎の昔の女だったおよねとその子の行く末に心を痛めるような様子があるだけに、人の心が皆無というわけではなかったのかもしれないが。いずれにせよ、凄惨な盗賊生活から足を洗った後は二人とも善良な民草として生きていた。
布団で大往生を遂げた須川の利吉と己の欲で寿命を縮め、穴の中で息絶えた万五郎の差は何なのか。人の生き死ににこれまでの歩みは関係ないということなのだろうか。
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鬼平は人の本性を見る
捕まったおけいが安心しきっていびきをかきながら寝ている様をみて、平蔵は「根は悪くないものだ」と慮る。続けておけいと対極にあるような江戸城の大奥の女性たちをぽつりと批判する。
親から見ても醜女というおけいと綺麗に装った大奥の女性たちなら、大奥の方が美しく魅力的だろう。しかし平蔵は見た目ではなく所業や心根で人を判断するというのが判るシーンだ。
劇画版のおけいの容姿は本当にいいバランスで描かれていると感じる。確かに美人ではないがどこか愛嬌があり、人の良さを感じさせるのだ。平蔵の弁に確かにな、とうなずいてしまうような見た目ではないか。
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大科 友美

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