この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第51巻収録。大名や旗本の屋敷から金品を盗み、その金を長屋にばら撒く”神明小僧”が出現。庶民からは義賊として愛される。幕閣から調査を命じられた平蔵は、密偵を使い足取りを追う。捜査線上に浮上したのは、火盗改方の元同心で、佐嶋が可愛がっていた三浦佑真だった……。
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火盗改メの元同心
火盗改メで以前に働いていた元同心が登場するストーリーだ。鬼平犯科帳の世界に登場する元同心は、多くの場合で当時の火盗改メの捜査や体制に関する問題を腹に据えている事がある。本作の場合には、自らの捜査による帰結が葛藤を招く描写となっているぞ。
元同心が描かれた作品には『消えた男』『おしま金三郎』などがあり、火盗改メ長官の平蔵に憧れる心理描写が色濃く描かれているのだ。鬼平ファンならば是非読んでおきたいストーリーだ。
鼠小僧と神明小僧
義賊として武家屋敷から金品を盗んでは貧乏長屋にばら撒く盗賊のストーリーだが、これは江戸後期に実在した鼠小僧が参考になっていると見るべきだろうな。おそらく多くの方は鼠小僧については演劇等の題材にて周知の事と思う。ゲームや小説等においてもモチーフにされる事の多い大盗賊の一人だろう。
悪い大名や阿漕な旗本から金を盗み、貧しさに喘ぐ市民へ施しをするヒーロー。そんな描写をされる事が多い鼠小僧なのだが、近年の研究によると武家屋敷は門戸の警備が堅牢な分、敷地内の警備は緩かったので鼠小僧は好んで狙ったとされるのだ。
また、鼠小僧は盗んだ金のほとんどを酒と女に使ったという話もあり、どうやらヒーロー像はフィクションとの見方が有力だぞ。色々な憶測からヒーロー像が出来上がってしまった鼠小僧ではあるが、尾ひれが付いてヒーローに仕立て上げられるほどに市民の鬱憤が溜まっていたのかもしれないな。
無念の佐嶋
佐嶋が最後まで信用をしていた元部下の三浦ではあったが、やはり鬼平の推察通り盗賊頭だった。義賊として三浦が神明小僧になったいきさつは作中にて細かく描かれているぞ。涙ながらにして佐嶋が三浦と対面する場面、佐嶋の心中を察するに胸が痛くなってしまう。
江戸時代には三大刑場と呼ばれた三か所があり、北の小塚原刑場、南の鈴ヶ森刑場、西の大和田刑場とされるのだ。もちろん江戸市中に最も近いのが小塚原刑場なので、江戸で捕縛された罪人は小塚原刑場で処刑される事が多かったと思う。
しかし敢えてどこで処刑されたかを記述した理由としては、鼠小僧が処刑された刑場として有名な小塚原を挙げる事によって、本作が鼠小僧をモチーフにしているという事を示したかったのかもしれないな。市民が漠然と抱えていた社会への不安を吹き飛ばすダークヒーローを、鬼平犯科帳の世界観で描いた本作は心理描写に優れた作品となっているぞ。人間の心理描写を好む方にはぜひお勧めの作品だ。
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滝田 莞爾
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