この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第9巻収録。平蔵の前任者・堀帯刀の時代に、五千両弱もの大金を強奪して姿をくらました蛇骨の半九郎。その半九郎の女と駆け落ちした、火盗改方の元同心・高松繁太郎が七年ぶりに江戸に姿を現した。高松が舞い戻った目的とは……?
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思わず涙が零れる展開が続く
日本のサラリーマンなら、否、サラリーウーマンも含めて、一生懸命に会社勤めをしている日本人なら、この『消えた男』を読むと思わず涙が出るのではないか。少なくとも私はそうだ。しかもこの1話で2度くらいは泣く。
平蔵が火付盗賊改方長官に就任する前、当時の長官に呆れ果て逐電した高松繁太郎という同心がいた。この高松の心持ちとこの結末は大人になればなるほど染みるようになった。
無能な上司に絶望するのも、別の上司に仕事ぶりを認められ張り切るのも、大人なら皆身に覚えがあるのではないか。さらにこの話は理不尽極まりない終わり方で、これもまた泣ける。人生は現実こんなものなのかもしれない。
なぜ高松は死ななければならなかったか
高松は平蔵に力量を認められ、平蔵のもとで働ける喜びを噛みしめている最中、毒のついた吹き矢で暗殺され、生涯を終えた。高松は何も悪いことはしていない。ただ一生懸命に自分の役目を誇り高く果たしていただけだ。
原作の池波正太郎氏はエッセイで登場人物の動きは自分が決めるのではなく自然と動いてしまうと語っていたことがある。
自分でも殺したくない、死なせるには惜しいと思っていても、作者の作為で話の流れを変えてしまうことはできないのだという。小説の一登場人物ではあるが、これが高松という同心の運命だったということなのだろう。
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有能な上司の下で働ける喜び
別段自分が有能だというつもりはないが、それでも仕事には自分なりに懸命に取り組んでいる。私だけでなく多分ほとんどの社会人がそうだろう。そして世の中には、そんな部下を叱咤激励し伸ばす上司と、自分の保身だけを考え、部下の仕事を自分の都合でないがしろにする上司がいる。
長谷川平蔵は前者で、平蔵の善人である堀帯刀は後者だった。自己保身しか考えない上司の下での仕事は、先が見えないようで辛い。高松に共感するところは多い。
この心境で読み進めるからか、平蔵が高松に二本差しを贈る場面では嬉し涙がにじむ。その涙もすぐに理不尽に対しての涙に代わってしまうのが悔しいところだが。
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大科 友美
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