この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第38巻収録。江戸で流行の歌舞伎に登場する悪役・定九郎を名乗る盗賊が出現。佐嶋の話では犯行日の数日前には必ず小規模な窃盗事件が起こっているという。平蔵は数日前に盆栽の窃盗事件が起こっていることに注目する……。
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盆栽という文化
盗賊の押し込み犯行と、その近辺に起こる軽微な犯罪とに関連性を見出した佐嶋の手柄とも言えるだろうか。盆栽泥棒が盗賊捕縛への糸口になるストーリーに仕上がっているぞ。盆栽は、元は中国から始まった物とされるが、日本には平安時代から鎌倉時代あたりに入ってきた文化のようだ。
鉢を大地と見立てて、その空間的な美しさを鑑賞する世界と言えるだろうか。自然の成長を見守り、慈しみを持って接する事で初めて完成する盆栽の世界観。ともすれば人の寿命をはるかに超えるほどの時間を要する作品も少なくないのだ。
絶対に同じ物が存在しない、天然素材による芸術作品だ。もちろん金銭的な価値も高い訳で、その価値の高さがストーリーのスパイスともなっているな。たかが盆栽ではなく、BONSAIという日本を代表する文化を垣間見るつもりで本作を読んでみるのもおすすめだぞ。
江戸の三大刑場
植木屋の爺さんが盗品の扱いを自白するに至った経緯は作品を読んで頂きたいのだが、やはり盆栽の盗品程度といった軽い気持ちに対して死刑を意識させた、鬼平の怖さが垣間見えたな。その時に忠吾が口にしたのが、小塚原(こづかっぱら)という地名だ。小さい“っ”が入る地名はそう多くないが、小塚原は、こづかっぱらで正しい地名なのだ。
ここで登場した小塚原とは小塚原刑場の事で、要は罪人の首を刎ねる処刑場という事だな。江戸には三大刑場と呼ばれ、三か所に有名な処刑場があったとされる。小塚原刑場、鈴ヶ森刑場、大和田刑場の三つが三大刑場で、実はこの立地にも意味があるぞ。
小塚原は日光街道沿い、鈴ヶ森は東海道沿い、大和田は甲州街道沿いと、主要な街道沿いに処刑場を立地する事で、江戸に入る者に対して犯罪行為を自制させる意味合いがあったそうな。読者の皆さんも、刑場の露と消えるような事にならないよう、正しい生き方をしていこうではないか。
斧定九郎、大野定九郎
鬼平が追い続けていた盗賊頭、自らを定九郎と名乗っていたようで、これは人形浄瑠璃や歌舞伎の演題として有名な“仮名手本忠臣蔵”の登場人物から拝借しているぞ。定九郎という人物は、強盗殺人や追い剥ぎなどを厭わない極悪人として描かれる事が多いのだ。
もちろん忠臣蔵を題材にした小説や舞台などでも、悪人の代名詞として登場する事が多い。舞台での定九郎はと言うと、猪を撃つ流れ弾に当たってあっけなく散る。そのあっけなさが悪役としての絶大な人気の秘密なのかもしれないな。本作の定九郎はといえば、やはりあっけない。
何のアクションシーンもなく、あっけなく捕縛される姿にがっかりした読者もいただろう。しかし、ある意味で定九郎のいつもながらのあっけなさが描かれていて、逆に嬉しいと感じた方がいたかもしれないな。色々な見どころが詰まった作品だぞ。鬼平犯科帳シリーズでも、ここまで要素が詰まったストーリーは珍しいと思うのだ。
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滝田 莞爾
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