この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第3巻に収録。悪所通いで持ち金を使い果たした忠吾。そんな忠吾に十両もの大金を差し出す奇特な男が現れる。
一方、平蔵は墓火の秀五郎一味を捕縛するため、秀五郎の手下を拷問。必殺「宮の刑」で口を割らせることに成功するが……。平蔵の忠吾への愛情が溢れる一編。
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兎忠成長物語?
木村忠吾が中心となる回。木村忠吾は良く言えばおっとり、悪く言えば煮え切らない、はっきりしない質の若い同心だが、平蔵はこの若手を優しく、時に厳しく導いている。
他の回でも書いたが、木村忠吾があまり同心として優秀ではないとみる向きもあるが、私はそうは思わない。否、もしかすると確かに忠吾は同心向きではない人間かもしれない。
ただ、忠吾の人間性を信じ、陰日向なく見守る平蔵がいれば、たとえ忠吾が同心向きでないとしても間違いなく立派な同心になるのではないか。このいろは茶屋の回でも忠吾は熱病から褪めたようになり、ひとつ大人になる。
いろは茶屋は実在の街
今回題名になっている谷中のいろは茶屋という茶屋街は実在していた。台東区の谷中、天王寺の周辺がそうで、以前は谷中茶屋町という地名も残っていた。もともと寺町だったところに作られた茶屋街で、それがどんどん岡場所、つまり色を売るエリアになっていった。
寺町にあるだけに“墓火の秀五郎”から襲われた浩妙寺の和尚のように、お坊さんが客となることが多かったといわれる。たかが小説、たかが漫画と馬鹿にはできない。鬼平犯科帳では江戸の風俗が色濃く描かれている。
リアルかどうかは江戸時代に実際に生きたことがあるわけでないのでもちろんわかりはしない。それでも、鬼平犯科帳は決して単なるファンタジーではないはずだ。
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人間の本性を垣間見る
終盤「善事を行いつつ知らぬうちに悪事をやってのける……悪事を働きつつ知らず識らずに善事を楽しむ……これが人間」だと平蔵が忠吾に語る。忠吾は墓火の秀五郎が同じようなことを言っていたことを思い浮かべる。
この言葉が鬼平犯科帳の根底に流れるテーマそのものだと私は思っている。多くの盗賊が登場するが、救いようのない大悪党もいるものの彼らも愛に飢えた幼少期が描かれることが多い。
そうなると読者の側も少しは同情的になってしまう。さらに劇画版では善人も悪人も表情の豊かさが際立つ。善人が罪悪感に打ちひしがれる様も、悪人がふとした時に見せる穏やかなまなざしも劇画版だからこそのものであり、劇画版の醍醐味でもある。
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秋山 輝
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