この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第49巻収録。江戸で評判の弁当屋・魚坂の若主人・吉太郎は、配達先で平蔵の妻・久栄と遭遇し、一目惚れしてしまう。じつは吉太郎の家系は代々盗賊で、近々、吉太郎も盗賊デビューする段取りだった。しかし、盗賊ではなく商人としての人生を送りたい吉太郎は、その葛藤を久栄に吐露するのだった……。
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表稼業と裏稼業
弁当屋の若旦那として辣腕を奮う吉太郎。大繁盛の店舗を忙しく切り盛りする表の顔の奥には、彼を取り巻く複雑な家庭環境が入り組んでいた。悩める若人の葛藤と、苦悩に満ちた吉太郎を救うべく奮闘する鬼平が描かれているぞ。
心理描写が鋭く光る作品となっている。現代日本にも未だ濃く残る家督制度が描かれている事からも、江戸時代の“家”という概念を理解するにも適した作品だろう。
家を継ぐという事
表稼業の弁当屋が人気上々となれば、裏稼業の盗賊を本業として大切にするという考えからは遠ざかってしまう。
家を継ぎ、家を守る事を考えるならば、表裏の区別は臨機応変に対応しても良いとは思ってしまうものの、江戸時代の価値観からすれば本業を守り伝える事が重要だったのであろう。
先祖から代々受け継いできた家督を末代まで残す事が重要だった時代であり、子息として生を受けた時点で生き方もある程度限定されてしまうのだ。その家督がたまたま盗賊であった吉太郎に、職業選択の自由はなかったが故に起こった悲劇だったのかもしれないな。
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悪党の短絡的な考え
“他人を傷つけない掟”という表現がある事から、吉太郎の生まれた家は本格の盗賊と推測が出来る。鬼平は本格の盗賊に対しての寛大な心を持っている反面、鬼畜の急ぎばたらき等には厳罰を下す事がほとんどだ。
吉太郎の家が本格の掟を厳格に守っていれば別のストーリーが見られたかもしれないのだが、やはり悪党は頭になる事を目指すと、途端に考え方が短絡的になってしまうのかもしれないな。
盗賊頭を巡る争いに巻き込まれた吉太郎ではあったが、期せずして家督の長となった吉太郎が取った行動にも注目だ。家を継ぐという重い価値観と、鬼平の心づもりがはっきりと描かれている傑作ストーリーとなっている。心理描写を鋭く表現した作品が好みならば、きっと気に入る作品だぞ。
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滝田 莞爾
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