この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第40巻収録。錠前を鮮やかに外し、千両箱を盗み出す事件が立て続けに発生。共通していたことは、錠前作りの名人・鍛冶屋仁兵衛が作った錠前だったこと。早速、鍛冶屋仁兵衛の身辺を捜査する平蔵。結果、仁兵衛の妻・お徳が、ある人物と密会を繰り返している事実が浮かび上がった……。
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女房の不倫
神田鍛冶町に店を構える仁兵衛なる錠前師が作る鍵こそは、難攻不落の錠前として大店が重宝していた鍵なのだ。ところが仁兵衛作の錠前が立て続けに破られ、盗賊の餌食となっている現状が明らかになって来る。鍛冶の名を冠している地名だけに、江戸時代から鍛冶職人が多く店を構えていた事が分かると思う。
神田鍛冶町という地名は現在のJR神田駅近くにある神田鍛冶町三丁目に残すのみとなっているのだが、江戸時代にはこの地域は鍋町(なべちょう)という地名だったそうな。錠前名人の作る鍵が破られる事件と、鍛冶屋仁兵衛の女房が若い男と良い間柄になっている事。
この二つには何やら繋がりがありそうだ、と見る鬼平の観察眼が光るぞ。複雑な男女の関係を、盗賊とも絡み合わせた鬼平犯科帳ワールドらしい作品となっているのだ。登場人物の誰に感情移入をするかによって、ストーリーもガラッと色を変えてくるだろう。
江戸時代の名残を街並みに
お徳と文吉が逢瀬を重ねていたのは、上野不忍池ほとりにある出会い茶屋の月むらであると紹介されているな。江戸時代は地域ごとに同業が軒を連ねる傾向にあったのだが、実は現代でもその名残が色濃く残っている地域も多数存在するのだ。有名なのは吉原遊郭の跡地だろうか。
現在でも男性諸君には有名な歓楽街として挙げられる吉原には、そのようなお店が軒を連ねているぞ。不忍池周辺には出会い茶屋が多くあったようだが、現在ではその名残はあまりないな。どちらかといえば池之端から湯島に掛けての地域に色濃く残っているかもしれないぞ。地理関係でいうと不忍池に隣接する地域が湯島と考えて頂きたい。
湯島にも江戸時代には出会い茶屋や連れ込み宿と称される男女の逢瀬の場があったとされるのだが、現在でも男女が休憩の出来る宿泊施設としてその多くが残っているのだ。このように江戸時代からの繁華街などの名残を、現在でも見る事が出来るのは面白いとは思わないかな。
冷え切った愛情の果て
錠前師の仁兵衛は女房を人扱いもせず、仕事の鬼といった描写をされているな。もちろん夫婦関係が冷え切っていたといった表現をするには適切だとは思うのだ。しかし不倫の果てに盗賊の肩を持つほどに入れ込んでしまってはいかんとも思う。
さて登場人物が全員、全てを失う結果にはなってしまったのだが、鬼平の量刑について読者の方はどう考えるだろう。目安として10両盗めば首が飛ぶと言われた時代に、幾度かの仕事を成功させたにも関わらずあの処罰で良かったのだろうか。
結果的に盗賊の片棒を担いでいたお徳もそれで良かったのか、と思ってしまう量刑ではなかろうか。しかし不倫も仕事も、何事もほどほどにしないと全てを失ってしまうという教訓になるストーリーではあったな。愛憎と盗賊の牝誑(めたらし)ストーリー、本作はなかなかの見ごたえがある作品になっているぞ。
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滝田 莞爾
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