この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第7巻収録。久栄の叔父で、将軍家の側近・天野彦八郎。その家来・遠藤小助が、同じく用人・中野又左衛門の妻とともに逐電した。怒り心頭の彦八郎は、小助を見つけ出すよう平蔵に命じるが……。権力をかさに、やりたい放題の彦八郎の恥ずべき所業に一同仰天。
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市井の人間の悪と善
平蔵の妻、久栄方の親族であり七百石どりの旗本である天野彦八郎の人柄や振る舞いを見ると、ああこういう人間っているよな、としみじみしてしまう。
弱い立場の人間には強くふるまい、自分のわがままを無理やり通し、何か事が起これば他人のせいにすることを厭わないような人間だ。犯罪を犯すわけではないが、良い人かどうかと聞かれれば首をかしげてしまうような人は現実にもいる。
しかしすべてが終わった時、天野の作った句を聞いた平蔵は素人作ではあるが感銘を受ける。これも現実でも同じで、全くすべてが悪という人はそんなにはいない。風流を解する心やたまさかに人に優しくする場面もある。天野という人間像がリアルで、読んでいてため息が出る場面が多い。
人の口に戸は立てられぬ
最初に平蔵が手掛かりを求めて呼び出したお元はもうひとり消えた人間がいること、それがご用人中野の妻お米であることを白状した。しかしそこで平蔵はお元がまだ何かを隠していると見抜いていた。
その隠されていたこととは天野とお米の不義密通だったのだが、疑問に思うのはお元がどこでそれを知ったのかということだ。お元は奉公して日が浅いという話で、しかもお米に対して好意的だった。
ということは、お元だけでなく他の奉公人もお米が天野から無理じいされ関係を持っていたということまで知っていたと考えるのが自然ではないか。ただ小助は何も知らなかったはずなので、女性陣だけの秘密だったのかもしれないが。
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平蔵はどうしてというけれど
今の世では許されないことではあるが舞台は江戸、作中では結構な頻度で女性の容姿の批判がある。お米を指して平蔵は「小柄で、痩せぎすの、顔もあまりぱっとせぬ、色黒の……いや、もう見栄えのせぬ女でなあ」「どうしてあのような女に、三人の男が……と思うとつい、可笑しくなって」と久栄に陰口を叩く。
ところがどうして、劇画版で描かれるとお米に色気があるので平蔵の陰口がいっそ上滑りして聞こえる。確かに美女には描かれていないが、薄幸な女なりの色気が感じられ、三人の男の心を奪ったのもかくや、という気持ちになる。劇画版で登場する女性で色気を本当に感じないのは老婆くらいのものではないか。
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大科 友美
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