この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第29巻収録。次期党首選における政敵を抹殺してほしいとの依頼を受けたゴルゴ。依頼主は“閣下”と呼ばれる西ドイツの富豪だが、その“閣下”に生意気な口をきいたゴルゴは依頼完遂後、“閣下”から命を狙われるハメになってしまう。ゴルゴを裏切った依頼主への制裁に多くのページを割いた異色作。
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どこに後味の悪さを感じるか
ゴルゴ13自体が唯一無二のスナイパーを主人公に据えている以上、ほぼ毎エピソード人は死ぬ。あくまで創作だからこそ、狙撃と人死にでカタルシスを感じるエピソードも多い。
しかしこのエピソードはゴルゴの狙撃からオチまでとにかく後味が悪い展開が続く。ところで、後味の悪い展開続きのなかで、どこに最も憤るかは人によって異なるようなのだ。自分は幼い孫が強欲な依頼者の過失で殺されるところが最も苦しく感じた。
人それぞれの苦しみの鏡
ネットで見かけた範囲になるが、例えばターゲットの息子嫁が罠に利用されレイプされた上にゴルゴの狙撃に巻き込まれて死亡するシーンが見ていられない、ゴルゴが依頼人から倍額振り込まれるのを待つ姿が普段の仕事に対しての高潔さを感じさせない、などだ。
推測にはなるが、人それぞれの苦しみが嫌悪感の鏡となっているのではないか。このエピソードは『毛沢東の遺言』や『おろしや間諜伝説』と同じく外浦吾朗氏によるシナリオだ。そして外浦吾朗氏とは直木賞作家船戸与一氏の別名義であることはファンにはよく知られていることだろう。
苦しみを鮮明に書くエピソード
外浦吾朗氏のシナリオは、作中に救いが見いだせない期間や人間が書かれることが多いように思う。イヤミスというのは随分最近出たジャンル名称だが、彼の作品はまさにイヤミスとしか言えないものもある。
読んですぐはもう二度と読みたくないと思っても、不思議とまた読んでしまい、嫌な思いをしながらもどこか作品のとりこになっている…というのはイヤミスそのものではないか。ゴルゴ13にこの読後感を求めるかどうかは読者によるだろうが、しかし得られる感情の大きさは他のエピソードに引けを取らない。苦境を鮮明に、徹底的に描いたエピソードでしか得られない読後感は確かにある。
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大科 友美
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