この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第3巻収録。大捜査網をせせら笑うように、手がかりを掴ませない葵小僧。ついに平蔵の他にもう一人、火盗改方が任命されるという異常事態に発展する。そんななか、平蔵にもたらされたある情報とは……?ついに葵小僧の正体が判明。平蔵の勇断が冴える妖盗葵小僧・後編。
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鬼平の人を見る目の確かさ
話の序盤、鬼平が会話もせず一瞥だけで放火犯を見抜く。鬼平を目の上のたんこぶと思っている北町奉行所もその手並は誉めずにいられなかった。鬼平が一見しただけで下手人を見つけ出すというのは完全なフィクションではなく、史料あってのことだという。
江戸の町人たちに人気があった鬼平なので、ある程度は下駄が履かせられている可能性はもちろんある。だが鬼平が迅速、正確に悪人を捕まえていたことが伺える。
結成当初の火付盗賊改方は冤罪による死刑も多くあったという。過去との対比もあって、江戸の人々にとってはいっそう鬼平の活躍が輝いて見えたに違いない。
コンプレックスを抱えた葵小僧
葵小僧の正体は役者崩れの男、芳之助だった。俳優の一粒種として生まれ、子ども時代は人気子役としてもてはやされながら容貌のせいで大成はしなかった。揚げ句に自分を応援していた茶汲み女が他の男と寝ていたのを見てその女を殺してしまう。
悪人として諸国を流れるうちに盗賊の一味に加わってしまい、盗賊の道で役者の才を使ってしまうようになる。芳之助が女たちを手籠めにするのは女という存在への強い憎しみの表れだった。
ただ、芳之助と茶汲み女は少なくとも作中では恋仲だったなどとは書かれていない。芳之助の一方的な想いだ。芳之助は裏切りと感じたが、読者からすると逆恨みでしかないのがわかる。そもそもの気質が一人よがりだったのではないか。
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鬼平らしい、強く優しい大団円
葵小僧は取り調べで、自身が手籠めにした女たちのことをむしろ嬉々としてしゃべりつくした。それは記録に残させようという、芳之助最後の非情な復讐のはずだった。
しかし鬼平はそれを看破し、調書を取らないまま芳之助の首を刎ねる。調書を取らないことを告げる平蔵の、落ち着きながらも怒りを瞳ににじませる姿と青ざめながらもあっけにとられたような芳之助の表情の対比に胸がすく。
長きにわたって江戸の町を恐怖に陥れたこと、同心を失ったこと、鬼平の怒りは計り知れない。氷のような冷たいまなざしが絵として見られる、だから劇画版鬼平犯科帳が好きだ。
大科 友美
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