この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第20巻収録。父親の仇討ちで江戸に出てきていた、鳥羽三万石・稲垣信濃守の家臣・佐々木典十郎が河原で惨殺される。ほかに流れ盗め専門の盗人の死体が一体。佐々木は袴を脱ぎ、下帯を外した姿で殺されていた。平蔵は現場から立ち去ったと見られる女を捜索する……。
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好き嫌いがはっきりと分かれる作品
女性に暴行を加えようとした武士が殺害された件から端を発した殺人事件。目撃者のいない犯行現場を推察するストーリー仕立てなのだが、非常にややこしい内容となっている。方々に話の軸が散らかって一見すると収集が付かないのだが、実はその展開こそが本作の主題ともなっているのだ。
ともすれば駄作となり兼ねないストーリーが、実は作者の手のひらの上で纏まっているということ。いかにも純文学的な表現手法なのだが、まさか鬼平犯科帳でこのような作品に出会えるとは思ってもいなかったぞ。仇討ちを軸とした明快な作品として読むもよし、作者に心をくすぐられる作品として読むもよし。読み手の意識によって評価が物凄く変わる作品だろう。
太刀筋が示した素性
鬼平が若かりし頃に左馬之助と共に研鑽をした高杉道場。その同門である小野田武助からの手紙を、殺された武士が懐中に携えていた事から鬼平との繋がりが生まれた訳だ。盗賊捕縛の際に鬼平と立ち会ったその太刀筋から、素性を明かさない武士の身元が明らかになる。佐々木典十郎が心貫流を修めたという説明はあるぞ。
しかし盗賊に身を落とした坂口房之助が心貫流だったという前置きは無い。説明が無いからこそ、坂口房之助と佐々木典十郎の父親がどのような関係なのか。どうして口論に発展したのか。なぜ心貫流を軸に話が繋がるか、全ては読者の頭の中でしか展開出来ないのだ。
風が吹けば桶屋が儲かる
風が吹くと砂が舞う。目に砂が入って失明する人が多数出る。生活のために三味線を弾く。三味線の需要が高まって猫が乱獲される。天敵のいなくなったネズミが増える。ネズミが桶を齧る。桶屋が儲かる。一見すると何も関係の無い事でも、全ては関連性があって、全ては繋がりがあるという事。本作の主題はこの一点に尽きるだろう。この作品は“浮世の仕組み”を鬼平流に表現していると言えるぞ。
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滝田 莞爾
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