この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス212巻収録。“戦後の闇”を題材にした仇討ちモノ。清掃会社を営む川田は、認知症が進む父が過去の記憶に悩まされていることに疑問をもつ。政府関係の調査員を使って調べたところ、父はシベリア抑留者で、抑留中にある人物と接点があったことが判明する……。
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心まで凍らせる酷寒の地の出来事
勇猛で知られる戦国武将の福島正則は晩年徳川家の不興をかい、信州の城に蟄居を申し渡された。温暖な地で育った正則が、雪深く底冷えのする信州の長い冬を過ごすのはいかほど辛かったことか、まもなく病死する。シベリアは、その信州などとは比べようもないほど厳しい気候であるにちがいない。
その地で行われたあまりにも残酷で非人道的な行為と、人間の醜悪さに、涙ばかりか心まで凍り付くようだ。老境にある父の心を苛む原因がシベリアにあることを突き止めた川田。彼の切なる願いを聞き届けたゴルゴが正体を暴かれたイチに鉄槌を下す。
記憶をすべて失う病気ではない認知症
川田の父親は認知症を患っているが、認知症にも幻覚に悩まされるレビー小体型など多様な種類があり、この場合、短期記憶を消失する、いわゆるアルツハイマー型認知症と思われる。さらに、脳が封印していたシベリア抑留中の惨い記憶が加齢などの要因により甦り、PTSD(心的外傷後ストレス障害)をも引き起こしているかもしれない。
川田が「父は寡黙だった」と語っているが、戦争から帰ってきたらまるで人が変わってしまった、という例は枚挙に暇がない。寡黙にならざるを得ない事情を抱えて生涯を送った父親へゴルゴは手向けの花を贈る。
極限の環境は人の本質をあぶり出す
元帝国ホテル総料理長・村上信夫氏はシベリア抑留の経験がある。厳寒の中、過酷な労働で死にかけた同僚から「死ぬ前にパイナップルが食べたい」といわれたが、入手できるはずもない。そこで、薄く切って砂糖漬けにして凍らせたりんごを「パイナップルだ」と言って食べさせたところ、息を吹き返したという。
人は追いつめられた状況で本質が現れるというが、この対局がイチだ。ゴルゴの銃弾による警告信号に気づき「あれは仕方なかったんだ、ソ連が悪い、戦争が悪い」という反省のない悪あがきをするイチには同情する余地など一片もない。
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野原 圭
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