この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第4巻収録。多額の治療費を受け取ることで有名な指圧医師・中村宗仙。その宗仙のもとに通う怪しげな浪人・石島精之進。はたまた大阪の大物香具師・白子の菊右衛門の名前も浮上して……。宗仙、精之進、菊右衛門の意外な関係とは? 同心・山田市太郎が見せる忠義心にも注目。
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人の弱さと、抗う強さ
この話は善人ふたりの心の弱さが作用しあい、やがて本格派の大盗賊へとつながっていくという仕立てになっている。鬼平犯科帳に登場する同心たちは決して全員が清廉潔白の人物ではない。
なかには心の弱さに付け込まれ、盗みや賭博に手を染める者すらいる。今回登場する同心山田は生活苦から道端で1時間も盗みに入る想像をめぐらせてしまうほど追い詰められた。
善良な指圧師中村宗仙は欲に流され、知らずにとはいえ大盗賊の女に手を出した。しかし山田は妄執を捨て、中村は女のために大金を稼ぎ続けた。ふたりの人間の弱さと強さが話を膨らませている。
彼の人は善人か、悪人か
中村宗仙は話が中盤に進むまで善人か悪人か判らない。劇画版では、宗仙の風貌がより混乱を深めていることは間違いない。
穏やかな表情を浮かべながらどこか底が知れず、不浄の金を返済したと言いながら、大店から五十両、百両もの治療費をあこぎにとっているようにも描かれる。
もちろん推測だが、敢えて善人か悪人か一見しては判らないような様子に描かれているのに違いないと思う。中村の事情がはっきりと明かされるまで、読者は中村の立ち位置をハラハラしながら見守ることになる。つい、どんどんと読み進めてしまう。キャラクターデザインというのは重要なのだなと感じさせられる。
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白州では表情で語る
鬼平はそのお役目柄現場で刃を交え、討ち果たすことが多い。とはいえ、すべて調べ無しで殺すだけでなく白州での取り調べも当然している。
この話では白州で哀しい事実が発覚するが、その時に浮かべる憂いと哀しみの表情が深く、印象に残る。目の前で泣き崩れる中村宗仙だけでなく、顔も知らない女の末路までも哀しんでいるのが伝わってくる。
その後静かに、しかし厳しく語り掛ける場面はまるで自分が庄吉になったかのように神妙に読み入ってしまう。殺陣シーンの鬼気迫る、迫力そのものの表情もいいが、白州での静かに相手を見極めるまなざしも鬼平犯科帳劇画版の魅力だろう。
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大科 友美
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