この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第2巻収録。『暗剣白梅香』に登場した金子半四郎や、『むかしの女』に登場した雷神党の井原惣市などを使い、何度も平蔵の命をねらった黒幕・蛇の平十郎がついに登場。はたして平蔵は平十郎を捕らえることができるのか?見逃せない一編。
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こんな上司に着いていきたい
平蔵の活躍を妬んだ奉行所から昔の所業を含めた誹謗中傷を受け、それでも豪快に笑い飛ばして部下である同心たちに自分の覚悟を語ったのち「責任は俺がとる! みな、迷わず俺についてこい!」……これで平蔵に惚れない読者がいるだろうか。
自らが矢面に立って、率先して悪に立ち向かう平蔵を見ると自分も同心になってこの親方に着いていきたいとつくづく思ってしまう。同時に、自分も平蔵のような人間でありたい、あらねばならないと襟元を正すような気持ちになる。
酸いも甘いも噛み分け、悪を厳しく罰し、善人にはどこまでも優しい。現実にはなかなか見られない人物像かもしれないが、憧れ、目指したくなる。
蛇の平十郎の顔立ち
今回登場する蛇(くちなわ)の平十郎は三十年に渡って盗め暮らしをしてきたという大悪党だ。それほどの悪党なら、私がこの人物の絵を描くとしたらつい見るからに悪い奴を描いてしまうと思う。
しかし劇画版の蛇の平十郎はたまに見せる目つきこそ常人のものではないが、風貌、物腰、どれも一般の人間としか思えない描かれ方なのだ。よくよく考えれば大悪党ほど捕まらないよう普通の人間を装うのが上手いはずだ。
悪党の雰囲気を出していたらその段階で小悪党止まりになる。劇画版のキャラクターデザインは蛇の平十郎に限らずよくよく考えられていて、鬼平の世界観をより深めているなといつも感じる。
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痛ましさが際立つ劇画版
この蛇の目では蛇の平十郎は盗みに入った屋敷の人間を皆殺しにする、急ぎ盗を行う。口と鼻に粘土を押し当て、布団針で心臓をひと突きにしてしまったり、足裏で口を塞ぎながら刀で一刀両断にしたりと直視できない惨状だ。
しかも今回、小判はすべて政府に寄進した直後だったため蛇の平十郎一味は盗みに失敗した。これはもちろん原作でも同じ展開なのだが、劇画版だと表情が描かれるだけにいっそう辛い。
平蔵の手落ちではないが、もっと何かできたのではないかと左馬之助に悔いを言う平蔵の表情も辛そうで心が痛む。すっきりと終る話ではないが、平蔵の優しさと責任感が伝わってくる終わり方ではある。
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大科 友美
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