この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第2巻収録。暗黒街の顔役の命を受けた凄腕剣士・金子半四郎が、執拗に平蔵の命を狙う!捜査線上に浮上した手がかりは、金子が身につけている香油・白梅香だった。鬼平vs金子の対決で決着かと思いきや、事件は意外な解決をみる。
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ミステリーとアクションが絡み合う
平蔵が剣の達人の刺客から狙われる話。と、これだけ聞くと話は面白くもなんともなさそうだが、この回には刺客の正体を探るミステリー要素と胸がすくようなアクションとの両方が入っていて、一気に読んでしまう。
ある夜、平蔵がひとりの刺客から闇討ちに合う。かろうじて最初の一太刀は受け流すが、一見して遣り手と見抜く平蔵。通行人が現れたためにその場は収まるが、船上にて再び襲われる。
初回対峙した時にかすかに残った髪油の香りを手掛かりに下手人を辿るのが、ミステリー調で面白い。江戸時代の女性はおしゃれのひとつとしてさまざまな香りの整髪油を楽しんでいたという。
とはいえ、嗅いだことのない香りだと気が付き、さらに立ち寄った菓子店で同じ香りだと気が付くのはさすが鬼平と言わざるを得ない。それほど目聡く、否、鼻聡いからこそ鬼平なのだろう。

劇画ならではの殺陣シーン
暗剣白梅香は数あるテレビシリーズでも取り上げられているが、いずれの殺陣も勢いがある。鬼平を演じた役者の一人、中村吉右衛門は最終回を迎えるにあたって「28年演じ続けたなかで最も印象的なアクションは暗剣白梅香」と語っていたほどだ。
テレビシリーズの殺陣も良いが、劇画のアクションシーンも凄まじい。二度目に平蔵が刺客から襲われるのはなんと雨降る夜、しかも手漕ぎ船の上なのだ。身を隠した刺客、金子半四郎が乗る船が平蔵の乗る船に襲い来る瞬間は見開きコマで尋常でない様子を読者に伝える。
そこから始まる殺陣シーンはバランスの悪い小さな船の上で行われているとは思えない勢いで、とかく手に汗握ってしまう。鬼平が投げた番傘を金子が切り捨て、その隙に鬼平は目にもとまらぬ勢いで刀を抜き応戦する。何太刀か刀を打ち交わした後、船上で静かに向かい合う……。船上の殺陣という場面設定も含めて、この迫力は劇画版ならではだと思う。
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剣の達人が易々と刺された理由
テレビドラマ版に触れたので、劇画版とテレビドラマ版での展開の違いにも触れておきたい。暗剣白梅香のラストは、船宿の亭主利右衛門改め金子の追い求めていた仇敵森為之介が出刃包丁で金子を刺し殺す。包丁を深く刺すばかりでなく、とどめで刺したままねじるあたり、森もまた生半可な武士ではなかったことが伺える。
この森から刺されるという展開自体は原作、劇画、テレビドラマいずれも共通だ。しかし中村吉右衛門版のテレビドラマでは金子が女郎に惚れこみ、凄味が消え、結果的に森から刺されてしまうという流れになっている。
平蔵が一目置くほどの剣士金子が十数年船宿の親父に収まっていた森に刺されて死ぬというのは何か理由がなければ納得がいかないのかもしれない。だが、それだけ森が凄まじい人物だったともとれる。どちらの展開が好みかは人によるところだが、私は原作、そして劇画の最期まで凄味のあった金子が好きだ。

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大科 友美

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