この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第52巻収録。日本橋の駿河屋が、裏で盗品売買を行っている。そんな情報を忠吾が仕入れてきた。早速、忠吾の下で密偵として働く与次郎が、駿河屋に潜入捜査をしかける。駿河屋の手代・甚八と仲良くなった与次郎は、甚八が弟を殺した犯人を捜していることを知る。その犯人の正体とはなんと……。
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密偵の辛さ
鬼平犯科帳に登場する密偵は、元盗賊など脛に傷を持っている者も少なくない。忠吾の密偵である与次郎も過去には人を殺めた事があるようだ。密偵として盗賊たちの動きを事前に察知する仕事をする以上、過去の因縁とも付き合わねばならないのが苦しい所だ。
本作では与次郎の過去と現在の探索とが深い繋がりを生んで、そこから複雑なストーリーが描かれている。釣り好きで人の好さそうな甚八の正体とは。与次郎と気心の知れた、釣り仲間としての甚八とは友情のような物が芽生えていたのかもしれないな。切ないけれども心温まるエピソードに仕上がっているぞ。
大川と釣り
鬼平犯科帳に登場する大川という河川は、現在でいうところの隅田川と考えて良いだろう。実際には吾妻橋よりも下流で、東京湾に流れ出るまでの流域を大川と呼んだそうだ。隅田川と東京湾の間に位置する流域は、知る人ぞ知る釣りの穴場なのだ。
地名でいうと豊海水産埠頭や晴海ふ頭がその流域になるだろう。護岸工事や東京湾の橋梁によって魚の数はめっきり減ってしまったが、現在でもスズキ(シーバス)を狙って岸壁を歩く人たちをよく見かけるぞ。
釣り人の話によると、東京湾と隅田川の間はシーバスが大きく育つとの事だ。ただし年に数例ではあるが、海に転落する事故が起こっているとも聞くぞ。釣りは禁止されている地域な上、フェンスなども無いのでくれぐれも気を付けて欲しい。
何気ない間柄
ただ釣り糸を垂らして釣りを楽しむ者同士、単なる顔見知りに過ぎない間柄であっても、その関係が大きな出会いとなっている事もある。釣りで面識がある程度の関係だった甚八と与次郎だが、狗として始末される寸前に甚八に救われた事は注目すべきシナリオだろう。
むしろ甚八の人の良さが滲み出ているエピソードといっても過言ではない。気心の知れた知り合いを騙す葛藤、自らの正体を明かす事の出来ない苦しさ。密偵の辛い気持ちが、嫌というほどに描写されているのだ。
本作では釣り仲間という間柄ではあったが、我々も意識せずに挨拶を交わしている人と重要な間柄になっている可能性もある訳か。出会いに気づかぬ事がないよう、気持ちの良い挨拶をしていきたいものだな。
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滝田 莞爾
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