この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第16巻収録。“急ぎばたらき”の兇賊・夜針の音松を、変装を得意とする同心・松永弥四郎が執念の捜査で捕縛する。しかし音松とともに捕縛された女と弥四郎との間には、ある因縁があった……。男女の性(さが)を鮮やかに浮かび上がらせた異色の一編。
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同心、松永弥四郎の営み
鬼平犯科帳には個性的ながらも素晴らしい能力に秀でた同心や与力が登場するぞ。本作に登場する松永弥四郎も特徴的な同心と言えるだろう。松永同心が関連するタイトルとしては、『平松屋おみつ』『虚無僧掟書』などがあり、どれも人気の高い作品だ。
本作は松永弥四郎の背景やキャラクターをがっちりと固定したであろうタイトルで、心理描写なども含めて高いクオリティを誇っている。変装の名人かつ竹内流捕手術の名手と評される松永ではあったが、そのプライベート、特に夫婦生活においては一風変わった趣味があるようだ。
変わった性癖ともいえる松永の営みから巻き起こる、盗賊捕縛の珍背景を描いているぞ。松永の“悪い病”とはどのような物か、気になる諸兄も多いのではないかな。
江戸の一妻多夫
女性との営みといえば、やはり若い男性は誰しも強い興味があるものだ。平蔵の息子、長谷川辰蔵も盛んな年ごろな訳で、時には剣術そっちのけで剣友の阿部弥太郎と遊びまわっているぞ。
女性遊びと括る話ではないのだが、江戸には単身の男性が多く、女性との比率も男性の方が高かったという。そして長屋に暮らしていた男性を取り巻く女性の中には、一妻多夫ともいえる環境があったというのだ。
もちろんそれが当然という話ではなく、あくまで特殊な例として考えるべきなのだが、現代ではあまり考えにくい事かもしれないな。作中に松永弥四郎と阿部弥太郎が一文字違いの兄弟である、という表現が作中に登場するが、この兄弟という表現、もしかしたら江戸時代には既にあったのだろうか。
真偽のほどは定かではないが、同じ長屋に住む男性たちが一人の女性に日常生活を頼っていたという姿、想像するとなかなかの修羅場な気がしてならないぞ。
江戸時代はエロ時代
盗賊たちが織り成す男女の個性的な場面に出くわした松永は、その獣のような行為に対して自分を照らし合わせたのだろう。深く反省すると共に“悪い病”として認識したようである。
ところがだ。江戸時代は性に関わる文化が大きく花開いた時代でもあり、それはもう口に出す事も憚られるほどの性風俗の文化があったとされるのだ。治安維持の為にご禁制の御触れが出た瞬間に、その代替として新たな性的嗜好が発生するなど、まさにいたちごっこと言っても良いだろうか。
ありとあらゆる性的なフェティシズム文化が広がったのも江戸時代と言われているぞ。まさにエロ時代なのかもしないな。その側面から照らし合わせると、松永の悪い病なんてのは非常に可愛いものかもしれない。
しかしストーリーの主軸としては、同心たる者、健全な性的嗜好を持たねばならないという教訓も含めて、しっかりと纏まっているのだ。松永同心の悪い病、読者の方はどのように捉えるだろうか、楽しみではあるな。
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滝田 莞爾
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