この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第38巻収録。同心・松永が殺人現場に遭遇。殺された男は平蔵も手を焼いていた盗賊・筑波の寅之助配下の者だった。男は奇妙なダイイング・メッセージを残して息を引き取る。一方、火盗改方の役宅を訪ねる一人の女性。彼女の証言では筑波の寅之助は、四年前に死んでいるという……。
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はっきりと見えない盗賊
盗賊同士のいざこざから発展したと思われる殺しの事件だが、殺された男が今際の際に発した言葉を頼りに捜査を進める火盗改メ。盗賊頭の妻の名前と推測はされるのだが、いかんせん上手く捜査へと結びつける事が出来なかったのだ。
鬼平の閃きによって、おみつと千代の二人の名を探す事に。同心松永はその名を持つ母娘を発見するも、捜査はなかなか進展を見せなかったぞ。
そこで鬼平が平松屋に客として潜入、おみつとの会話を経て細い手がかりを探って行くのだった。盗賊のトラブルも全容もほぼ見えない状況でも、それでも名前だけを頼りに解決の糸口を探す火盗改メの執念が見どころだ。
日本人にとってのツゲ(柘植)
平松屋で鬼平が購入した物がツゲの櫛だが、平蔵の妻、久栄が好むという描写からも、天然素材の持ち味を活かした製品が好きだったのだろう。ツゲは比較的暖かい地域に生息する木材なのだが、非常に成長が遅いので伐採量がとにかく少ないのだ。
昔から貴重な木材として扱われていて、江戸時代では特に髪飾りの材料には最高級材として扱われていたぞ。柔らかさの溢れる黄色い木材で、髪の油分を吸う事によって非常に美しい色へと成長する事も特徴だ。木の製品は経年変化といって時間の経過と共に色味が変わってくるのだが、ツゲの場合には時として鼈甲のような透き通った茶色に経年変化する事もあるのだ。
近年ではツゲの産出量も減っていて、特に御蔵島産のツゲともなれば非常に高価で取引されているな。印鑑や将棋の駒などで使用した場合には物凄い価格となってしまうが、それだけ日本人にとっては特別な木の一つなのだ。
鬼平のお情け
清水と名乗っている鬼平に対し、おみつが鬼平とはどのような人物かを問うのだが、その問いに対しての鬼平の回答が一つの見せ場だろうか。鬼平が鬼平を自己分析して、つらつらと第三者目線から鬼平の人となりを伝える姿は、読者からするとむず痒く感じる事もあるだろう。
しかし優れた人物は自己分析を冷静に出来るとも言うのだ。その点からしても鬼平は己を知り、そして己を律する能力に長けていると思うのだ。これは剣術を以てしての能力なのか、それとも育った環境による物なのかは分からない。
おみつの申し立てにより、誰もが良かったと思えるハッピーエンドを迎えるのも嬉しいではないか。殿様を前に緊張のあまり震える女性の姿も、なかなか克明に描かれていて面白いな。鬼平犯科帳では珍しい、非常に分かり易いハッピーエンドとして結ばれている事からも、お勧めの出来る作品ではないだろうか。
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滝田 莞爾
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