この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第64巻収録。KGB大佐のムラトフは党書記を護衛中に襲撃をうけ、党書記暗殺を許してしまう。犯人はKGB将軍の直属の部下であったため、ムラトフは将軍が黒幕とみて調査を続けるが、将軍はムラトフをアフガンの最前線に左遷してしまう。余命わずかとさとったムラトフはゴルゴに仇討ちを託すが……。
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いかなる権力者も老いからは逃れられない
権力者の耄碌がテーマとなる話は古今東西よくあるが、本話の標的となるクレメンコ将軍もご多分に漏れず、痴呆症が著しく進行してしまっている。
部下達にも裏で愛想を尽かされている将軍だが、恋人と一緒に裏で将軍を馬鹿にしていた部下のシュメルノフが、ラストページでは狙撃に倒れた彼を前に「将軍……」と本気で憐れむような表情を浮かべているのが印象深い。
その直前の「その人物ならすでに抹殺しておりますが!?」というシュメルノフの困った顔といい、倒れた将軍の傍らに落ちた兵士の人形といい、なんとも悲愴感を漂わせるラストだ。
あまりに浮かばれない暗殺理由に戦慄
クレメンコ将軍がコペイキン書記を暗殺させたことから始まる今回のエピソードだが、ラストは耄碌した将軍が再びコペイキンの暗殺を命じて部下を当惑させ、その直後にゴルゴに狙撃されるという皮肉な結末となっている。
しかも、ラストシーンで将軍がコペイキンの暗殺を思い立った理由が、政治的な策謀でも何でもなく、子供の頃の確執をふいに思い出したからというのが凄い。
ひょっとして、冒頭の暗殺の方も似たりよったりの理由だったのだろうか……。そんなことで伯父を殺されたのだとしたら、依頼者のムラトフ大佐はあまりに浮かばれない。
非業の死を覚悟していたムラトフ大佐
依頼人が死んでしまうエピソードは珍しくないが、本話のムラトフ大佐もまた、クレメンコ将軍の圧力で激戦地のアフガニスタンに左遷され、自らの死を覚悟していた。
そしてその予感通り、彼は復讐の成就を見届けることなくアフガンで戦死してしまうのだが、7コマにもわたって描かれる死の描写が妙に生々しく、いやがおうにも読者の同情を誘う最期。
ゴルゴも彼の境遇に思うところがあったのか、わざわざ墓地まで出向き、彼の棺が埋葬されるのを遠巻きに眺めているのが印象的だ。その後、仇は討ったものの、誰も幸せにならない哀しい話だった。
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東郷 嘉博
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