この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第163巻収録。鳥インフルエンザが大流行するなか、製薬会社の会長ブリゾーラは特効薬の開発に成功する。上院議員である彼は「人々の救済」をスローガンに、大統領選へ向けた支持集めに走る。現大統領ジョゼからブリゾーラ暗殺の依頼をうけたゴルゴは、ある特殊な方法で試みるが……。
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人の弱みにつけ込む商売
昨今、世界的大流行といえばコロナウイルスが代名詞となってしまったが、本作は鳥インフルエンザテーマである。人から人への感染が始まった鳥インフルエンザの治療薬タミールがブラジル大統領選の鍵を握る。
哲学者ジャン・ボードリヤールは著書の中で「人間がそうであるように、ウイルスにも天才と凡才が存在するのではないか」と述べているが、実に的を得た考察だと思う。一部の天才ウイルスが生き延びるために次から次へと変異をとげ、人類は彼らに翻弄されている。古代より最強の生物はウイルスであることを改めて突きつけられる作品だ。
恐るべき殺人蜂
殺人蜂・キラービー出現の経緯に驚いた。交配の際の事故・いわば突然変異なのかもしれないが、自然界に放たれてしまったのは痛恨の極みであった。日本でも蜂に刺されて命を落とす事故が後を絶たない。蜂にもよるが、一般的に黒い服や整髪料など強い香りに引きつけられることが多いようだ。
蜂に刺されたら患部をよく洗い、医療機関への相談を勧めるが、蜂を丸ごと焼酎漬けにした「蜂酒」を吹き付けると痛みが治まる場合もある。ただし、蜂酒は生きている蜂で作るのかなど、詳細な方法は不明なので、達人へ相談後に実践した方が良さそうだ。
極貧が作る危険な野望
人の命も金次第なのはいつの世も変わらないが、ブリゾーラの忌まわしい過去を知ると、医薬に対する深い怨恨も理解できる。生死にかかわる体験は、人の生き方に大きな影響を与えずにはおかない。ブリゾーラ少年に医者が情けをかけていれば、彼の人生も全く違った方向へ展開していっただろう。
国や時代が違っても、人間を殺人蜂のように危険な生物に変えるのは「貧困と孤独」であることは間違いない。現実となってしまった「黒い猫も白い猫も鼠をとるのが良い猫」というゴルゴの言葉を、ジョゼ大統領は、苦々しく噛みしめていることだろう。
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野原 圭
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