この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第64巻収録。ヤーマス原子力発電所ではロス五輪開幕前に原子炉を運転開始するため、社員が不眠不休で作業にあたっていた。が、それが祟り冷却システムが作動しない故障が発生。原子炉が爆発すればロスの街が2万5千年にわたって荒野と化すという……。脚本:きむらはじめ
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予言ではなく、必然
このエピソードは1984年に公表された。2011年に発生した東日本大震災、それに伴う福島第一原子力発電所事故が起きたときにもこのエピソードを取り上げられていた。ゴルゴ13が事故の発生を予期していたとまで言う人もいた。しかし実はかのチェルノブイリ原子力発電所事故も1986年に発生したものなので、こちらもゴルゴのこのエピソードが先行しているのだ。
チェルノブイリ原子力発電所事故を受けてのシナリオではない。さいとう氏は「書いていてゾッとするような話だった」と語っている。しかしそのゾッとする話が現実に繰り返し起こるのだ。チェルノブイリも福島第一原発も、見識ある人たちからすれば必然だったのかもしれない。

ゴルゴは冷酷無比なマシーン?
さいとう氏は同じコラムでこうも語っている。「私としてはゴルゴ13を冷酷無比の機械のような人間には描きたくなかった。ゴルゴは自分のルールを貫くが、決して無感情ではない」。名シーンと名高い、死にゆく依頼人にタバコの火をつけてやるゴルゴを指してのコメントだ。
ゴルゴは命を賭して仕事を完遂し、ゴルゴとの約束も守り抜いた依頼人に敬意を表してタバコの火を向けた。人の心が無ければ、全身やけどを負った依頼人は置いて放射能蒸気が満ちたエリアからすぐに退避するだろう。機械は正確で優秀だが、人間にしかできないことはまだ多い。
読者へ疑問を投げかけ、爪痕を残す
この2万5千年の荒野は2018年に発行された改訂版リーダーズチョイスで堂々の1位となった。2002年に発行された旧版では24位だった。福島第一原発事故を受けて、読者への印象が濃くなったと考えられる。エピソードの最後には、原子力発電所の安全性や事故の可能性を詰め寄られて「我々はどうしたらいいんでしょう……?」と疑問を投げかけて終わる。後味が良いとは決して言えない。
しかしこの疑問が投げかけられているからこそ、読者に強い印象を残したのだろう。原子力という人間の手に余る技術とどう付き合うのか。このエピソードを読み返すたび、そして原発の問題を目にする度に問いが目の前に浮かぶ。

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大科 友美

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