この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第214巻収録。フロリダ州マイアミを舞台に、最新のITシステムを駆使する麻薬組織とゴルゴとの対決を描く短編。組織の幹部・ムーニョスは組織の縄張りを侵したゴルゴを、ライバルの中国マフィアだと勘違いし、攻撃を仕掛けてしまうが……。脚本:夏緑
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邪悪なテクノロジーに体を張って戦うゴルゴ
麻薬中毒患者がたむろする暗く陰鬱な地下鉄の駅の話、かと思ったがそうではない。明るい海の広がるマイアミで、麻薬組織Mの金庫番・パキート、通称ボスが操るハイテク機器とゴルゴの体を張った勝負が繰り広げられる。
天才エンジニアのボスはリーマンショックの際、移民という理由で真っ先に解雇されたという。これがアメリカ社会の実状であり、野球のメジャーリーグでも監督の人種による好みが起用に影響しているとも言われている。ボスはイリーガルな世界にスカウトされ、その始末のためゴルゴに高い料金を支払うのは矛盾の極みである。
これからは裏社会も学歴社会となるのか
ドローンやエレベーターの遠隔操作など、部屋にいながら指先一つで人を殺傷できる時代になってしまった。裏社会では高倉健の任侠映画のような仁義はもはや存在しないし、命知らずにドスを振り回せる「鉄砲玉」が出世する時代は過ぎ去ったのだろうか。
彼らの収益源も実店舗からのピンハネよりオレオレ詐欺やアダルトサイトのほうにシフトしているという話も聞こえてくる。今後出世するには、ボスのようにテクノロジーの知識が必要なのかもしれない。だが『ビッグデータ』のように、遠隔操作は相手にも追跡を許すという決定的な問題もある。
人間の感情を麻痺させる仮想現実の怖さ
ガビーは無邪気な女である。いざとなれば彼女を命の盾にするつもりのボスに「ボスのおかげでメキシコに自由に送金できるし鉄道で家族に医薬品や現金を送れて感謝してる」という。この家族思いの優しさの反面、ドローンで惨殺された男たちの死体を画面で見て「もっとみたかった」とゲーム感覚で喜んでいる。
脱出シュートからいきなり飛び出したガビーは、マイアミの美しい海を見て「こんなに綺麗だったんだ」とみとれた次の瞬間、惨劇を目の当たりにする。仮想現実と本物の現実とのギャップが、いかに大きいものか身にしみたことだろう。
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野原 圭
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