簡単なあらすじ
ワイド版第49巻収録。堅物で通っている与力の猪子が、魔性の女・奈美との不倫にハマる。一方、大名や旗本の妻や女中が集まる怪しい賭場を調査せよとの指令をうけた平蔵。猪子が捜査にあたるが、判明した賭場の黒幕は、奈美の亭主が営む”成田屋”だった……。
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与力、猪子進太郎
本作は鬼平からの信頼も厚い与力、猪子進太郎が主人公のストーリーだ。若いながらも抜群の能力を持ち、こと柔術においては右に出る物無しと言えるほどの実力派だ。その猪子が札差の女房と関係を持ち、現代でいう不倫関係を軸に話が展開していく。
与力として好からぬ間柄である事を承知している猪子だったが、男女の関係となると難しくなってしまうのは何時の世も変わらないのかもしれないな。忠吾や細川の失敗とはまた異なる猪子の色恋話は、鬼平ファンならぜひとも押さえておきたいストーリーだぞ。余談ではあるが、猪子進太郎は原作には登場しないオリジナルキャラクターだ。
江戸時代のマゾヒズム
ストーリーに登場する札差の旦那と女房は、今の言葉で表現すると“NTR(寝取られ)”に近い間柄かもしれないな。江戸時代は性的文化が成熟されていた事は有名なのだが、様々な文化を官能とエロスに表現していたとも言えるのだ。
例えばタコと女性が肉体関係を持つ春画や、男性の陰嚢に強いこだわりを持った浮世絵など、我々が見てもビックリするような内容の物も登場する。旦那は女房に浮気をさせ、間男との物語を聞いて興奮を覚える。また愛する女房を傷つける事によって、その恥辱と背徳感からお互いに性的興奮を覚えたのであろう。これは著名な小説家マゾッホの『毛皮を着たヴィーナス』にも登場する心理的な描写である。
では江戸時代の日本にはマゾヒズムが無かったのか?と言われるとそうでも無い。実は11世紀に紫式部が書いた『源氏物語』には、既にNTRのストーリーが登場しているのだ。性的な文化から江戸時代を眺めると、いかにも自由奔放な価値観があって面白いぞ。
猪鹿蝶の意味
タイトルが示す猪鹿蝶、これは登場する人物が関連しているのだ。キーワードは、猪子進太郎、割り鹿の子、蝶の入れ墨の3つ。猪と蝶の札は早い段階で引けたものの、鹿の札が最後に残った印象だ。それでも伏線をしっかりと回収しつつストーリーも完結しているので、非常にすっきりとした作品となっている。大人の世界を垣間見たい読者には、ぜひお勧めのタイトルだ。
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滝田 莞爾

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