この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第51巻収録。同心の酒井が手先につかう目明かし・幸太郎から、新しく移ってきた船宿が盗人宿ではないかと報告が入る。案の定、ここは“越畑の佐平次”の盗人宿だったが、罠にはまった幸太郎は囚われてしまう。しかし、幸太郎がお守りとして持っていた母の形見を見た佐平次は、驚愕の表情を見せるのだった……。
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岡っ引きのお話
本作は同心の酒井が雇っている御用聞き親子のストーリーだ。御用聞きを岡っ引きと表現する事も多いが、この岡っ引きという言葉の語源がなかなか端的で面白いのだ。岡は傍のこと、つまり傍目八目の言葉が示すとおり脇に立つ人の事だ。
同心ではない脇役が縄で罪人を引っ張る事から、岡っ引きの名前が付いたという訳。“おかっぴき”という語呂が非常に良く、相手を小馬鹿にする蔑称として使われてきたって話だ。言葉に歴史あり、そんな側面から文化を垣間見るのも楽しい物である。
二足のわらじ
二足の草鞋を履く、ということわざがある。多くの方が聞いた事のある有名なことわざだと思うが、意味としては全く異なる二つの仕事を両立させるといった意味合いになるだろう。“木工作家とコラムニスト、二足の草鞋を履いています”のように使うと、会話もピリっと引き締まるかもしれないぞ。
さて、なぜことわざの話を出したかと言うと、実は二足の草鞋という言葉は岡っ引きが語源になっているのだ。岡っ引きは同心が私的に雇った物だが、犯罪者の巣窟を捜査させる為にはその道の筋の者を使う事が多かったとされる。博徒やヤクザ者、元罪人や香具師など、蛇の道は蛇という事だろうか。
そのような素性の者を警察の下部組織として動かしていた歴史があるのだ。博打を生業にする者が博打の元締めを逮捕するような例から、両立しえない二つの仕事の事を二足の草鞋と呼んだ訳だな。残念な事にその身分を利用して自らの有利に仕向ける輩もいたらしく、岡っ引き禁止令が出た記録も残っている。
生みの親より育ての親
幸太郎が最終的に救おうとしたのはやはり育ての親だったな。いかに実の親だとしても、岡っ引きの立場で盗賊頭になれはしないだろう。しかし本作の流れは鬼平犯科帳のエピソードの中でも、そんなバカな、と思ってしまうほどの背景かもれない。
いかにも劇的と表現すれば良いだろうか。心温まる非常に良い話なのだが、実の親が名乗りを上げる部分が急展開すぎて驚いてしまった。だが、盗賊が小塚原に送られる結末は鬼平犯科帳らしさがあって良いぞ。ハートフルストーリーを期待しなければ、楽しめる作品になっているだろう。
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滝田 莞爾
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