この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第20巻に収録。昔、密偵・おまさが妹のように可愛がっていた、引き込み女のお元。おまさは、お元から引き込み先の若旦那とわりない仲になり、引き込みを躊躇っていると相談を受ける。お元を傷つけたくないおまさは、平蔵に相談する。登場する盗賊・磯辺の万吉は、その昔、彦十の女を寝取ったことがある因縁の男。
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人混みに盗賊の顔を見る
五郎蔵の元手下、桑原の喜十が河岸の中で見かけた顔こそが磯部の万吉。喜十は五郎蔵が密偵をしている事を知っているのが好都合だったな。偶然にもおまさの張り込みターゲットお元と磯部の万吉との繋がりも見えてくる。
親友ともいえる人間を、役目上とはいえ売ることに対するおまさの葛藤。そしてその心情を察した上での、鬼平の言動、態度が何とも格好良い。密偵と盗賊との関わりを、心理描写を軸に上手く描かれた作品だ。
徒労に終わる
磯部の万吉の居場所を探るべく、五郎蔵、粂八、彦十は方々を歩き回って探索だ。徒という漢字は、足が土を踏んでいる形から成り立った形成文字だ。つまり乗り物を使用せずに歩くという意味。労の漢字は、たいまつが大きく燃え尽きている様子を表していて、働く、疲れる、という意味を持つ。
この二つの漢字を組み合わせた熟語が徒労、つまり歩き回って疲れたという意味から転じて、努力が報われなかった、結果が伴わなかった、という意味になる訳だ。しかし歩くという努力をした事には変わりはないので、結果は水物というではないか、必要以上に落ち込まなくても良いのではないか。密偵たちの探索は徒労に終わったけれども、鬼平から労わってもらえたのだからヨシとしよう。
愛情そして裏切りの末
磯部の万吉は悪党ながらも、お元という女性に対して好意を寄せていたのだと思う。お元からしてみればその気持ちは受け入れられなかったのかもしれないが。引き込み先の婿養子とデきていたお元は、二人の男性のどちらかを選ぶにも至らなかったのだろうか。
しかし万吉と婿養子、はっきり言ってしまえばどちらもダメな男だ。男を見る目が無かったと言えば元も子もないが、こうしたダメな男ほど別れるのも下手とは言われるな。万吉がもう少し女性の心を知れたならば、きっと典型的な終幕にはならなかったようにも思うのだ。
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滝田 莞爾
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