この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第49巻収録。平蔵は放蕩無頼の生活を送っていた頃の命の恩人・佐次郎を訪ねる。先は長くないと語る佐次郎は、江戸で暮らす孫の栄太に渡してほしいと、形見の品を平蔵に託す。栄太が働く”紅糸屋”を訪ねた平蔵だが、紅糸屋は盗賊の押し込みに遭い廃業したという。しかもその翌日に栄太は行方不明になっていた……。
スポンサーリンク
本所入江町の鬼銕
平蔵が家督を継ぐ以前、若かりし無頼時代の名を銕三郎。本所の鬼銕と呼ばれ、彦十たち悪友とつるんで過ごした青春時代のエピソードが登場するぞ。若いころの平蔵のエピソードは非常に人気が高い。
本作に登場するのは銕三郎が悪の道に進まず、真人間となった出来事の一つが描かれている。奥多摩にてワサビ田を営む隻腕の佐次郎こそが平蔵にとって命の恩人なのだが、老い先短い佐次郎が気になっているのは栄太という孫の事だった。
モテる男はつらいよ
鬼平犯科帳の世界では、引き込み(内通者)を狙いの商家に忍び込ませてから盗みを働く本格の盗賊が多く登場する。誑しこみというのは、本作の女賊おみちのように商家の主を色香で誘惑をし、盗みの手引きをする方法の事だ。
誑しの中でも、男性が商家の女房などを目標として内通をする場合には女誑、牝誑(めたらし)と呼ばれる。役者のような顔立ちで、女性とあらば放ってはおかない色男は実在する。一方で、あばた面で女性には痛い目を見てきた同心もいる。悪い意味での女性経験が豊かな忠吾だが、本作での鋭い着眼によって事件は解決の糸口を辿るぞ。忠吾の経験が火盗改メ同心としての才覚に繋がるという部分も見どころだろう。
さて、この女誑という言葉、江戸風紀資料などを見回したのだが、どうにも犯罪や盗賊との関連が見られないのである。更に調べたところ鬼平犯科帳の原作者、池波正太郎の造語である可能性が出て来た。鬼平ファンにとっては馴染みのある言葉だが、一般的な言葉ではないという非常に興味深い話だ。
ワサビは綺麗な水で育つ
平蔵の説得により盗賊稼業から足を洗い、ワサビを育てるべく奥多摩へと帰る栄太を襲った悲劇とは。栄太が足を洗った水はきっとワサビも豊かに育つ綺麗な水だったのだろう。身も心も平蔵によって清められた栄太ではあったが、やはり盗賊の経験は一掬いの濁り水として残っていたのかもしれないな。
たった一掬いの濁り水であってもワサビは枯れてしまうのか、それほどに繊細な野菜だからこそ高貴な香りが楽しめるのだろう。江戸時代から奥多摩では江戸野菜の栽培が盛んで、特にワサビの栽培地として有名だった。昭和に入ってからも静岡、長野に並ぶ優良生産地として栽培をされていたようだ。残念ながら現在ではワサビ農家も減ってしまったが、貴重な江戸野菜を残している文化は大切にしたいものだ。
この作品が読める書籍はこちら
滝田 莞爾
最新記事 by 滝田 莞爾 (全て見る)
- 鬼平犯科帳 漫画:第265話『同門の宴』のみどころ - 2022年9月9日
- 鬼平犯科帳 漫画:第48話『おしま金三郎』のみどころ - 2022年9月5日
- 鬼平犯科帳 漫画:第67話『殺しの波紋』のみどころ - 2022年9月1日