この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第115巻収録。自衛隊始まって以来の天才パイロットで、琉球王家の血を引く伊波天臣。彼は財界の大物・菱井グループの松方と結託し、秘密作戦「オペレーション・トロイ」を実行に移す。それは長く抑圧されてきた沖縄を解放するべく、沖縄出身の自衛官たちを率いて決行する「沖縄独立作戦」だった……。脚本:平良隆久
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当時のリアルタイムエピソード
沖縄基地問題は令和のいまも大きな社会問題のひとつだが、1995年10月に起きた沖縄米兵少女暴行事件は世論が大きく動く契機となった事件だった。そしてこの沖縄シンドロームの初出は1996年1月。リアルタイムの情勢を背景にゴルゴが撃った相手は、沖縄の独立を願ってクーデターを起こそうとする自衛隊員だった。
この沖縄シンドロームはどれだけの衝撃を読者に、いや、世間に与えただろう。しかもこのエピソードには単純な正義だけでなく沖縄の歴史や悲哀、未来への美しい願いまでが込められている。さいとう氏はゴルゴでは社会的な善悪を基準にしない、ゴルゴの善悪を基軸にしているとインタビューで語っていた。まさにその通りのエピソードだ。

狙撃相手は悪人とは限らない
ゴルゴ自身は社会的な善悪はいっさい捉われず、依頼を受ければどんな相手でも狙撃する存在だ。ただスナイパーという職業上、そして法外な報酬から、狙撃相手は多くの恨みを買っている悪人や、もしくは国家に仇なすテロリストなど、社会的な善悪を基軸にしても“悪い奴”が割合に多い。
しかし今回のターゲットのひとりは沖縄の未来を憂い、クーデターを目論む青年だ。琉球王朝の王家に近い家系に生まれ、カリスマ性を持つ自衛隊員伊波。悪役どころか他の漫画に出てきたら主役になれそうなほどのキャラだ。クーデターという行為の是非はともかく、彼自身は決して悪人ではない。
死に方を選ばせるゴルゴの恩情
ゴルゴの使う得物はスナイパーだけあって銃が多い。銃の特性から、ターゲットの前に姿を現さず仕事を完了させることもままある。その方が何かと都合がいいのは少し考えればわかる。しかしこのエピソードで、ゴルゴと伊波は首里城で対峙する。伊波は作戦失敗後、自分がゴルゴに狙われることを悟ってわざわざ自衛隊那覇基地から部下を引き払わせていた。
ゴルゴなら基地にいる伊波を撃つことも簡単だっただろう。それでも首里城という場を選び、しかも刀を向けてきた伊波へ銃弾ではなく拳を返した。最後には琉球への愛国心が強い伊波に自ら切腹をさせてから拳銃で介錯するという恩情まで見せた。ゴルゴが持つ彼なりの義が色濃く表れていて、私の好きな狙撃シーンのひとつだ。

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大科 友美

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