この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第2巻収録。十九歳の平蔵を“男”にした女・おろくと、数十年ぶりに再会した平蔵。ときを同じくして無外流の使い手・雷神党の井原惣市が平蔵の命をねらう。ひょんなことから井原とおろくに接点ができ、物語は意外な方向へ……。
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善も悪も人間の一面
決して長いエピソードではないが、いろいろと考えさせられる場面が多い回だ。人間の良い面や弱い面、強い面、残酷な面、そして人間から獣に成り下がったような存在までもが登場する。
そもそも鬼平犯科帳という作品自体、人情物と評されることが多い。主人公の平蔵も良いところだけでなく、若かりし頃のどうしようもないワル時代など弱い面も濃く描かれている。他の登場人物も同様だ。だからこそ、人気が高い。
劇画版には表情や行動が視覚的になって、尚更人情物という側面が強くなっている。優し気で満ち足りた表情も、人間でありながら他人を蹴落とし思いやりのかけらもない姿も、劇画でみると原作以上にいっそう生々しい。
劇画ゆえの衝撃的な描かれ方?
ところで、私は女だから気になるのかもしれないが、おろくの老け込み方は少々衝撃的だ。大店の番頭をゆすろうというシーンで回想が入るが、17、8年前と思い浮かべた時のおろくは若く、艶やかなでシワひとつない姿だ。
それが20年足らずで見る影もなく老女の見た目になるというのはいささか残酷だと思ってしまう。原作ではそれほど気に留めなかったが、劇画で絵として見ると衝撃は大きい。とはいえ現代より平均寿命が短く、かつ良い化粧品もなかった江戸時代のこと、これが現実なのだろう。
しかも昔の男たちの前に姿を見せると、平蔵はともかく他の男は皆顔を見ただけでおろくだと気が付く。そのくらいには面影は残っているのだから、確かに本人が言う通り年をとっても“男殺し”のおろくは健在といえるのだろう。
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平蔵が人足寄場を作ったことは史実
話の冒頭で平蔵が人足寄場の建設を老中松平公に進言し、実際に作られたという描写があるが、これは史実だ。人足寄場自体は歴史の授業で習う単語だが、松平公が作ったとだけ聞くことの方が多いだろう。
人足寄場は小悪党に手に職をつけさせ、再犯を防ぐ目的で作られた施設だ。この目的の施設が火付盗賊改方である長谷川平蔵から提案されたというのが素晴らしい。いかに平蔵が身を入れてお役目を勤めていたかが判るエピソードだろう。
現実では人足寄場は幕末まで運営されつつも、反面多くの問題をはらんでいたといわれる。しかし劇画版で生き生きと嬉しそうに働く様子が描かれていて、人足寄場ができたことを喜ばしく思っている風の描写になっている。さいとう氏は平蔵の成し遂げた事業を評価しているということなのだろうな、と思って嬉しくなる。
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大科 友美
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