この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第15巻に収録。3編から構成される122ページの長編エピソード。KGBの秘密作戦「人形計画」と「プロジェクト・ホーク」を軸に、KGB諜報員・ミーナの数奇な運命と、ゴルゴの活躍が並行して描かれている。オフィシャルブック『THEゴルゴ学』のファンが選ぶTOP40で第12位に輝いた秀作。脚本:K・元美津
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女性が報われない、切なさ
ゴルゴ13は依頼さえされれば、あるいは自らが狙われれば男女問わず狙撃する。さらにゴルゴは依頼の遂行のためならどんな非道なことでもする。自分が女だからかもしれないが、女性がゴルゴのターゲットになる……しかもその女性が報われないような展開のエピソードは読後しばらく気が晴れない。ふと思い出しては無性に切なくなる。このモスクワ人形もそうだ。
ひょんなことから国家機密のスパイ活動に巻き込まれた若い女性が、偶然ゴルゴを見かけ、工作員としての使命感から尾行してしまい、そして狙撃される。この女性はミーナことアンジー。救いが一片も無く、ため息が出てしまう。

人形に罪はあったのか
アンジーはただ運命に翻弄された、素直で賢い女性だったと私は思っている。ゴルゴに撃たれるような業は無かった。強いて言うならアンジーは訓練所ですれ違っただけのゴルゴに心惹かれ、彼を気に留めてしまった。ゴルゴに興味を抱いたこと自体がゴルゴにとってギルティだったのかもしれない。しかしゴルゴは強いオスであり、素性を隠していても女性の関心を惹きつける存在だ。
そもそも善良な町娘として生きてきたアンジーだ。ゴルゴのような男性に触れることはなかったはず。そう思えば、一瞬の邂逅を果たしただけでゴルゴを意識してしまうのも仕方ない話だろう。しかしここでゴルゴから狙撃されなかったとしても、町娘ミーナが敏腕スパイアンジーとして生きた果てに幸福があったかはわからない。どちらにしてもただただ哀しい。
スパイは母を想う
ミーナは今際の際に「……おかあさん……」と呟き事切れる。そもそもミーナが仕組まれた横領に手を染めたのも母親の服を買うためだった。ソビエト国家保安委員会から詰問を受けているときも母親のことを気にかけている。ミーナの母はエピソード中にシルエットすら登場しないが、彼女は縁もゆかりもない冬の国で娘が死んだことも知らずにずっと帰りを待ち続けているのだと思うとさらに胸が痛む。
ゴルゴと何らかのかかわりを持つ女性はしたたかで強いタイプが多い。ミーナが弱いということではないが、やはりどこか異色の存在だ。さいとうたかを氏も「この女性像は自分には考え付かない」と語っている。

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大科 友美

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