この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第11巻に収録。火盗改方の同心が切り殺される事件が頻発。袈裟懸けに一刀のもとに切られた傷をみた平蔵は、師・高杉銀平が「忘れ得ぬ強敵」と語っていた雲竜剣の使い手が犯人ではないかと推測する。一刀流vs雲竜剣。シリーズ屈指の名勝負。
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異形の剣術、風雲剣
一刀流の達人である鬼平が、異形の剣法を操る剣客に襲われていた事実が判明する。辛うじて危機を回避した鬼平ではあったが、同心が次々と襲われて行くのだ。更に惨殺を極めた鬼畜働きも起こる。
火盗改メに対する挑戦と受け取った鬼平ではあったが、捜査は難航を極めてしまう。そんな中、鬼平と左馬之助の師匠である高杉銀平が若かりし頃、真剣にて異形の剣法と立ち会った話に行きついたのだ。右首筋から心の臓に掛けての太刀筋で結ばれる多くの共通点は事件解決への糸口となるのであろうか。
鍵師助次郎と堀本伯道
高杉銀平と引き分けた剣客は風雲剣を操る堀本伯道という人物であったが、存命であれば70歳を超える老年だ。その齢にて鬼平と対峙出来るとは思えないのだ。本格の盗賊に対して合鍵を作る鍛冶屋の助次郎が、その仕事を請けていた盗賊こそが堀本伯道であったのだ。
若いころには無頼な行動もあったであろう堀本伯道だが、盗賊としては本格を貫いていたようだ。鬼平の策略によって、火盗改メ同心を襲った人物及び鬼畜働きをした悪党が堀本伯道ではない事が判明する。その息子、虎太郎こそが諸悪の根源であったのだ。
堀本伯道は虎太郎に風雲剣の剣技を伝える事は出来たものの、本格の心持ちを伝える事は上手く行かなかったのだな。堀本伯道と虎太郎、風雲剣対決はまさに息をのむ対決だ。更に鬼平と虎太郎の一騎打ちは、まさに本作全ての描写を収束させてのストーリー展開と言っても過言ではないだろう。
報謝宿とは
堀本伯道と助次郎は、盗んだ金で報謝宿を運営、管理していたようだ。貧しい者への宿の提供だけではなく、食料の施しや医療的な処置も行っていたのだな。非常に尊い精神に基づいて、まさに報謝していた事が分かる。この報謝宿という言葉は、1806年出版の読本昔話稲妻表紙に記載があるので、古くより存在する言葉である事が分かる。
ただし報謝宿という呼び方よりも、善根宿(ぜんごんやど、ぜごんやど)という呼び方が一般的かもしれないな。元々は旅をする宗教者へ宿を提供する事から始まったようだ。托鉢に対して喜捨をする考えと同一視されていて、旅をする人への宿の提供が善根を積むという事から善根宿と呼ばれているそうな。
利用者は旅をする者に限定をしていた訳ではなく、行き倒れの保護活動なども行っていたので、堀本伯道の行っていた報謝宿は善根宿の一種と見る事が出来る訳だな。現代でもこの流れは残っていて、善根宿や通夜堂として紹介されている場所は存在しているぞ。しかし利用者のマナーの問題から閉鎖や廃止をしている事も多い。素晴らしい考えに基づいての施設だけに、心無い利用の仕方だけは避けて欲しいものだ。
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滝田 莞爾
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