この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第41巻収録。両国橋の花火大会があった夜、金蔵の扉を火薬で爆破する手口の強盗が発生。平蔵は火薬に詳しい人間が絡んでいるとみて、花火師の唐衛門に意見を求める。一方、唐衛門の家には謎の人物から、大金が届けられるという不可解な出来事が度々起こっていた……。花火師の師弟愛にホロッと泣ける一編。
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錠前の爆破
江戸市中に広がる花火大会の音と光。豪華絢爛な夜空の宴の中、蔵の錠前を爆破する盗賊が仕事をやってのけたのだ。火薬は大きな爆音が響くものの、花火大会の音と同化して誰も気づかなかったという事だろう。火薬を扱った盗賊についての捜査をするべく、花火師に協力を得ようと忠吾が訪れるも無下に断られてしまう。
鬼平が尋ねた所、弟子の千助が関与している可能性がある事を吐露する親方であった。親方と弟子の間にどのような経緯があったのか、謎が紐解かれるごとに深い情愛が見えるストーリー展開は見ものだ。花火師の親方と愛弟子との愛情と心意気を描いた名作だぞ。
鍵屋と玉屋
両国橋を舞台に開かれた花火大会がストーリーの中心となっている。この花火大会は現在の隅田川花火大会に繋がっているぞ。ところで江戸時代に幕府は江戸市中での花火禁止令を出すのだが、何度も何度も御触れを出そうとも江戸市民は花火を止めなかったそうだ。
仕方なしに隅田川沿いと海岸でならば花火をして良いと、幕府が折れた形で決着したあたりが面白いな。もともとは奈良から出てきた職人を始祖とする鍵屋、鍵屋からのれん分けで誕生した玉屋の二つが、隅田川開きの花火大会で活躍したのだ。花火大会といえば、大きく美しい花火が上がった際に観客が声を上げる掛け声が有名だ。
かぎやー!たまやー!というのは、鍵屋と玉屋、二つの花火職人たちを褒めたたえる掛け声だったのだな。両国橋を境にして、隅田川の上流に玉屋、下流に鍵屋が位置取って花火を上げて夜空で競い合ったそうな。ネオンもなかった江戸時代、さぞや大玉の花火は美しく夜空を彩ったのだろうな。
花火師としての矜持
花火師としての生き方を千助に伝える事が出来なかったと悔やむ親方に対し、鬼平は今からでも花火師としての教えを伝えるべきと諭す。そして心に花火師のプライドが残っていた千助は改心をする訳だが、花火が光輝いたのは夜空だけではなく千助の心の中だったのかもしれないな。
夜空に広がる大玉のように、人々に感動を与えるからこそ花火師の矜持はそこにあると思うのだ。花火が消える侘しさを尊ぶ人もいるのだが、千助の場合には華やかな光と音の饗宴こそに花火の素晴らしさを感じていたのだろう。戦国時代が終わって鉄砲や火薬の出番が減った後に現れた花火師という職業。鬼平犯科帳の世界でもその心持ちとともに、美しく花火を咲かせるストーリーとなっているぞ。
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滝田 莞爾
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