この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第5巻に収録。嵯峨に立ち寄った平蔵と忠吾は、チンピラ五人に追いかけられていた小娘・およねを助ける。
およねは大阪の暗黒街を二分する顔役・高津の玄丹に関する、ある秘密を握っていた。玄丹一味はおよねを殺害すべく、一刀流・免許皆伝の大河内一平を差し向けるのだった……。
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無我の境地の達人は神業を繰り出す
悪党に追い詰められて危機に陥る平蔵を見ることができる珍しい回。大勢の悪党に取り囲まれた上にわき腹に傷を負った平蔵は「もういかぬか……」と一瞬弱気を見せる。
しかし次の瞬間「よいわさ……ならばここで、死ぬるか!」と死ぬ覚悟を決める。そのときに浮かべた不敵な笑みはどう見ても追い詰められた側の人間が浮かべるような表情ではない。その後の鬼平は鬼人のごとき動きで敵をどんどんと切っていく。
絶体絶命の状況に陥りはするが、そもそも普通の人間なら手負いで取り囲まれたところでもう終わりを迎えている。ここで死ぬるか、というのは自棄っぱちではなく、気負いを捨て、無我の境地に己を追い込むための覚悟だ。修羅場を潜り抜けた達人だけが得られる境地だろう。
木村忠吾がモテモテの理由
京都奉行所の与力浦部が奈良行きへ同行するが、その門出を見送りに妻と妹が登場する。この妹・妙が忠吾に一目ぼれする様子が描かれる。浦部も乗り気で、江戸に嫁にやってもいいと言い切るほどだ。
さらに名前以外何も話さないというおよねだったが旅立って数刻後には忠吾と笑顔で会話を交わしている。忠吾の人柄に癒されたのは間違いないだろう。木村忠吾という人物はもちろん欠点もあるが、人に好かれる人柄をしている。これは現実でもとても大事なことではないかと思う。
ちなみに劇画版では浦部が若く描かれているためか妹となっているが、原作やドラマ版では妙は娘という間柄だ。いずれにせよ浦部は長男なので、父亡き後に妹の縁談をまとめても全くおかしくはないのだが言い添えておく。
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表が悪党なのか、裏が悪党なのか
白子の菊右衛門に引き続き、高津の玄丹という関西の大盗賊が登場する。この高津の玄丹は表向きを出雲屋丹兵衛と名乗り、大きな船宿を営んでいる。
奉公に出ていたおよねから見て、この主人はとてもいい主人だったことが描かれている。嫁に行く奉公人に晴れ着を仕立てるほどの大旦那だ。気風がいい素晴らしい人物としか言いようがない。
白子の菊右衛門もこの話の中で平蔵に対して借りがある、だの、花も実もあるとりあつかいを台無しにしてしまった、だのという独白があり、義理の分かる男だというのが伝わってくる。悪党が本性なのか、善人が本性なのか。鬼平犯科帳では、どちらも本性であると描いているのが魅力なのだろう。
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秋山 輝
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