この記事の目次
簡単なあらすじ
改訂版リーダーズ・チョイス収録。バチカン銀行を切り盛りしてきたニーノは、上司であるマッシモ司祭に不正投資で出した損失の責任を押し付けられ、バチカンから追放された。彼はスイス銀行の不特定口座から不正出金し復讐を開始する。が、不正出金した口座がゴルゴの口座だったことから……。脚本:安達謙太郎
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幻の作品、30年越しに
このバチカン・セットも『スワップ 捕虜交換』『幻(ダミー)の栽培』『告発の鉄十字』と並んで長く幻のエピソードといわれていた。1988年にビッグコミックに掲載されて以降、2018年発行の改訂版リーダーズチョイスまで収録されることが無かったのだ。実はこのバチカン・セットについては封印されていた理由がいまひとつはっきりしていないのだ。
バチカン司祭の横領や電子窃盗、スキャンダルなどを扱っているので、センシティブなエピソードであることは間違いない。ただ、他の幻のエピソードは封印された経緯がはっきりしているのだが、バチカン・セットは何を調べてもそれが出てこない。世で言われている作者の自主的な封印という理由はさいとう氏が明確に否定している。

スキャンダルは本筋ではない
私もバチカン・セットを読む前からバチカンのスキャンダルを扱ったこと、もっと言えばカトリック教会での幼児性的虐待を扱っていたことが原因で封印されたということだけは聞いていた。そのため、初めてバチカン・セットを読んだ時驚いた。確かにバチカンのスキャンダルが出てくるが、それらはエピソードの本質ではなかったからだ。
俗物そのものの元司祭、ゴルゴの金がかすめ取られた本当の理由、依頼の裏側まですべてを見逃さないゴルゴ。教会でも銀行でも人間の欲望が渦巻くのは同じという面白みを感じた。このエピソードへは本当にいずれかの団体から抗議などがあったのだろうか。あったにせよ、エピソードを封印までする必要があったのだろうか。
欲望だけで動く人間たちの末路
今回の依頼者はゴルゴを裏切っていた。思えばターゲットは司祭からも、スイス銀行からもその欲望を手玉に取られ、良いように扱われ、切り捨てられた哀れな男ともいえる。ゴルゴが依頼者の嘘、裏切りを許さないのはよく知られたルールだ。しかし今回の依頼者は最後にそれを聞き、驚いた様子を見せていた。
ゴルゴに仕事を依頼する時のルールをさほど知らずにゴルゴへの依頼ルートだけ知ったというのもすごい話だ。ゴルゴは都合のいい道具ではなく、信念で動くプロフェッショナルだと知らなかったのだろうか。己の欲望だけで動く人間は必ずどこかで足元を掬われる。それはゴルゴのエピソードのなかだけでなく、現実でも同じだろう。

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大科 友美

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