この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス未収録作品。1986年、泥沼化するイラン・イラク戦争下、イラン国内では僧侶体制に疑問をもつ厭戦ムードが充満していた。戦争継続を推し進めたいイラン秘密警察は、老衰で寝たきりの指導者・ホメイニー師の影武者を登場させることで、国民を鼓舞し戦意の高揚を図るが……。脚本:安達謙太郎
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罪作りともなる絶大な権力者の存在
冒頭、紙面から音や熱、煙までが立ち昇るかのような圧巻の爆発シーンで物語は始まる。いつもながら、この迫力ある場面描写は、他の追随を許さない。タイトルを見ると、まるで麻薬の原料栽培を連想するが、これは麻薬より始末が悪い。
心にまかれた「カリスマ」という名の見えない種が、憎悪や不満、不安という負の感情により育てられ、花開き、その香りは人々を熱狂に駆り立てる。花はいつか枯れるが、為政者達はそれを許さず枯れた花の代わりに「造花」をもって欺こうとする。この作品は、話題性も高く、荒唐無稽の話なら、笑ってすますところだろうが、案外真実に迫っていた可能性もあるのではないだろうか。

大国の醜い思惑も絡んだ戦争目的の戦争
中世ヨーロッパも、慢性的に戦争が続いていた時期があった。極端な例かもしれないが、王が優雅に椅子に腰掛け、はるか遠くに戦況を眺めながら「ところで、この戦争はいつから、何のためにしているのだったか?」などと、家来にご下問することもあったかもしれない。
いわゆる陣取り合戦だったあの頃は、今よりまだマシだった。これは、大国がそれぞれの思惑のため、単に継続目的で武器を供給することにより続けられる、信じられない戦争であり、喜ぶのは武器商人だけである。大国の首脳もまた、国益という名の幻に踊らされているのだろう。
果たしてどうなる、気になるダミーの行く末
ポール・ニューマンとジュリー・アンドリュースの映画『引き裂かれたカーテン』を思わせるゴルゴの狙撃シーンだ。映画では中身は荷物だったが、貨物の不自然な動きをゴルゴが見逃すはずはない。ガラバギの死はダミーの生存を意味するが、第525話『顔のない男』同様、ダミーの行く末はほぼ決まっている。
窃盗で捕まる前は真面目な煉瓦工として働き、子供を育てていたごく普通の一市民だった彼の必死の訴えに、戦争が引き起こす罪深さを、改めて思い知る。内戦だろうが他国とだろうが、いつの世も戦禍に焼かれ虐げられるのは市井の人々である。

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野原 圭

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