この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第37巻収録。 ロシア人戦犯・ボロコフは大戦中にドイツに寝返った過去があるため、故郷へ帰ることは死を選ぶに等しいことだった。それを承知で故郷・レニングラードの地へ降り立ったボロコフは、思い出の地を訪ね歩く。彼は逮捕され死刑宣告をうけるが、ゴルゴに対してある依頼を残していたのだった……。脚本:北鏡太
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自分の狙撃を依頼した老人の胸の内は……
今回の依頼人は裏切り者として裁かれることを知りながら故郷のソビエトに戻ってきた老人。そして依頼のターゲットもまた、その老人本人である。そのこと自体はゴルゴが標的の写真を見せられるシーンで、勘のいい読者ならピンとくるだろう。
しかし老人の「自殺依頼」はある状況限定のものだった。故郷の家族の前に自分が姿を現せば、直ちに密告され処刑される。だから自分が逮捕された時には一思いにゴルゴに撃ち殺してほしい、というのが彼の願いだったのだ。だが、そこまで覚悟した上で故郷に戻ってきた彼を待っていたのは……。
密告社会の怖さを思い知らされるラスト
死を決意して故郷の家族のもとを訪れた老人。束の間の再会も決して安らかな時間とはならず、妻子や実の兄弟達からも裏切り者として冷たい言葉を向けられた彼は、失意のうちに旧友のKGB捜査官によって逮捕される。家族の誰が密告したのかを教えてほしいと捜査官に懇願する彼の姿には、なんとも胸が締め付けられる。
最後は望み通りゴルゴに殺してもらう彼だが、その間際に明かされた密告者の真実は皮肉なものだった。彼は結局、安らかな気持ちでは逝けなかったのだ。密告者が誰だったのかは……皆さんご自身がぜひ読んで確かめて頂きたい。
あの頃は身近な脅威だった「ソ連」
長期連載であるだけに、その時々の世界情勢の資料としても楽しめる『ゴルゴ13』シリーズ。本話の舞台であるソ連も、冷戦当時の読者にはリアルな脅威として実感されていたものだった。
捕虜となって仕方なく敵国のために働かされた人間を「国家の裏切り者」として戦後も追い詰め、実の親兄弟さえも密告の手先となる全体主義国家の冷酷さと恐ろしさ。今でいえば北朝鮮に対して抱く恐怖と同じだろうか。そうした国が大国としてアメリカと並び立っていた時代が、ほんの数十年前まであったのだという事実を本話は思い出させてくれる。
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東郷 嘉博
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