この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第194巻収録。反体制派と政府軍の市街戦が激化するリビア。大根役者のアブドは、カダフィ大佐に顔が似ているという理由で、大佐の影武者として採用される。かねてから民間人の犠牲に心を痛めていたアブドは、隠匿された武器・弾薬が過激派の手に渡らぬよう芝居をうつが……。脚本:ながいみちのり
人生は努力の方向性に迷うこともある
「芸能界は努力の方向性がわからない」とは俳優・渡瀬恒彦氏の言である。アニメのルパン三世のルパンの吹き替え栗田貴は、声優・山田康男が急逝したため急遽抜擢された。さぞ喜んだと思いきや「自分は山田康男のモノマネしてただけなのに、草野球やってる八百屋のオヤジにいきなりメジャーでプレーしろというようなものだった」と回想している。
役者として万年端役のアブドもさしずめこのような心境だったかもしれない。おかげで皆にかしずかれ、贅沢三昧の日々を送ることになったのだが、さぞかし努力の方向性に疑問をもったことだろう。

圧倒的質感の武器や銃器の緻密な描写
影武者として優雅な生活を送っていたアブドだが、内戦の火の手が迫り反政府軍の攻勢が強まると、今度はその顔のために危険な目に逢うことになるのは、まさに運命に翻弄されているとしか言いようのない気の毒な人生である。
ところで、このように武器や銃器が数多く登場する作品では、それらの質感や重量感が伝わってくる作画の迫力にも注目したい。ゴルゴが、依頼されたミッションを遂行するために選んだのは「南アフリカ製・ツルベロ、口径14.5ミリ、モデルSR14.5」で、ゴルゴにさりげなく武器の生産国を語らせているのも心憎い。
死ぬ気で打った一世一代の大芝居
人間、死ぬ気になればこれほど大きな事ができるのかと実感する。アブドは一市民であり、ダミーの贅沢な生活をしながらも弾圧される市民に心を痛めている。祖国の内戦に心を引き裂かれる『FRIEND』のアミナ同様、その良心が、捨て身の思い切った行動の原動力となったのだろう。
「最後にあんたみたいな役者と競演できるなんて役者冥利につきるよ」「俺は俺の舞台を生きているだけだ。お前と同じに、な」というセリフが胸を打つ。心から満足し笑って死ねるアブドは、同じダミーでも『真実の瞬間』のダハンよりはるかに幸福だったに違いない。

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野原 圭

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