この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第190巻収録。スヴァールバル諸島の炭鉱作業員が、ロシアの港で銃殺された。遺体と対面した息子のオルグは、遺体の鼻孔に炭塵が多量に付着していた事から、本当は落盤事故で死亡したのではないかと推理する。死因隠蔽の影には海底資源の国際条約をめぐる陰謀が隠されたいた……。脚本:加久時丸
スヴァールバル、それは収奪の象徴
人は多くを知らずに一生を送る。「スヴァールバル条約」などという、聞き慣れない名前も、これを読まなければ生涯知ることはなかっただろう。生物の中で火を使うのは人類だけだ。火のために人は自然界からエネルギーを採取していたのだが、いつか自然のサイクルからから大きく逸脱してしまい、互いに収奪を始めた。
「収奪」と言えばお上品だが、わかりやすく言えば「ぶんどり合い」であり、スヴァールバル条約は、その象徴に思える。収奪の果てに人類は滅亡し、後には暗く冷たい海岸が荒涼と波打っている、そんな情景を連想させる作品だ。
敵か味方か、閉ざされた地での心理戦
過疎な地域に住む人々の結束は固い。島のような閉ざされた環境ではなおさらである。島で犯罪が発生しても、目撃者を探し、証言を得るのは至難の業だという。もっとも皆周知の事実であるから、犯人は生涯針の莚で暮らすという制裁が待っているのだが。
だからゴルゴやオルグのような、よそ者は目立ちその動向はすぐに周囲に知られてしまう。その中で真相を知るべくオルグは神経をすり減らすのだが、そんな彼へのゴルゴのアドヴァイスは「食べることだ。体力がなければしたい事もできなくなる」だ。シンプルだがあらゆる場面に通用する真理である。
正義が生活を脅かす、迫られる苦渋の選択
ただ一人、オルグに事実を語ってくれたイズマイロフの言葉が重い。「キリヤコフ家は手厚い労災補償が出て生活できるが、ほかの作業員たちはわずかな補償でお払い箱」「裁判で正義をまっとうできるほどロシアは甘い国ではない」残念ながら、ロシア以外の国においてもこれは当てはまる場合が多いのが現実だ。
日本でも不正を内部告発した人の中には、誹謗中傷が親族に及び、娘さんが飛び降り自殺して生涯寝たきりになってしまったケースもある。このような理不尽が世の中に横行するから、その解決のためゴルゴの仕事は増える一方なのである。
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野原 圭
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