この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第190巻収録。ベトナムへの新幹線の売込みが佳境をむかえる中、日本外務省は中国による計画横取りに目を光らせていた。アジア太平洋局の小野寺は、中国側のブレインとして暗躍する、日本の元外交官・桐嶋の抹殺をゴルゴに依頼する。が、桐嶋の邸宅は狙撃不可能な要塞だった……。
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伝説の男はなぜ黒幕になってしまったのか
歴史的に常に微妙な関係が続いている日本と中国。今回はエネルギー問題で中国としのぎを削る様子が描かれた『燃える氷塊』同様、新幹線の技術輸出を巡り、日中で繰り広げられる激しい競争の内幕が実に興味深い。
かつて伝説の外交官といわれた敏腕な日本人・桐島が、中国側の黒幕となっている、という設定なのだが、なぜ日本に敵対するような行為に走るのかが、最大の謎として、最後まで気にかかる。理由をたずねられれば「私欲」と答えているが、常に命を狙われているため、屋敷にほぼ軟禁状態の生活では、心身とも満たされるはずがない。
究極の粋で風流な狙撃シーンに脱帽
特筆すべきは狙撃のお膳立てである。『史上初の狙撃者』に登場するイタリアの、皮手袋職人などゴルゴが世界各地の一流職人を紹介してくれるのもシリーズの大きな魅力の一つで、今回も面白い人物が登場している。
また、重要なアイテムとして「伊那紬」が使われている。和服の中でも着心地が良く、究極のお洒落といわれる紬は、手間がかかるので大変高価にもかかわらず、格付けとしては普段着にしかならない。たまたま自宅を訪れた人だけが、そのお洒落を目にすることができる、という風流人の心をくすぐる、粋の極みのような着物なのだ。
最後に明かされる桐島の重い秘密とは
最後の最後に、桐島が隠し続けた秘密が明かされるのだが、その理由に胸が痛む。国民の命を犠牲にしてまで守らなければならない「国益」や「国際競争力」とは一体何か、誰のためなのか、明確に説明できる人間がいるだろうか。
日本を捨て去ることを決意した桐島の心には、この重い問いが渦巻いていたにちがいない。二度と日本の地を踏めないと思っていただろう桐島が、故郷の思い出・伊那紬をまとい、蛍舞う日本庭園でゴルゴに撃たれて苦しまずにあの世へ行く。彼は安堵と幸福の中で息を引き取った、と考えるのは、あまりに不謹慎だろうか。
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野原 圭
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