この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第151巻収録。IT業界の盟主・サイバーテクノス社。日本製の無償OS「オリオン」の台頭に脅威をおぼえた同社は、オリオンの開発者・半田教授に懐柔策を持ちかける。身命を賭して日本の技術を守ろうとする半田に、日本のIT研究を陰で支えてきた長老・杉原は、ゴルゴを助っ人として送り込む。 脚本:とおる
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二人の技術者
この作品には、半田と鷲尾という二人の技術者が登場するが、一人は裏切って米サイバーテクノス社へついてしまう。二人のうち一人が裏切ったことは、作品の中盤で明かされる。しかしそれが半田なのか鷲尾なのかは、終盤になるまでわからない。
両者にはもともと「基本ソフトは社会の共有財産」という共通の信念があったが、サイバーテクノス社のミューラーの切り崩しにより、両者ともそれが本当に正しいことなのか葛藤する。オープンソースにこだわることで、資金が集まらず開発が遅れてしまう可能性があるのも事実で、利権を選択することが一概に「悪」だとは言い切れない。どちらをとるか苦悩して揺れ動く両者の心理が一番の見どころであろう。
IT環境の変化
この作品は今から約20年前の2003年の作品で、当時と今とを比較するのも面白い。作品中にまだスマートフォンは存在しておらず、いわゆるガラケーしかない状態だ。作品のテーマとなる技術の映像圧縮技術と小型ブラウザは、すでに実現されてしまっている。新幹線で高画質の動画を見ることになんの珍しさもない。
さらに、Apple WatchなどのウェアラブルデバイスやIoT機器により、作中に登場するユービトビアすら実現しかけていることがわかる。20年前にはSF的な空想に近かったユービトビアだったが、現在の私たちにとってはおとぎ話でもなんでもなく、もう少しで実現可能になっていることは、素晴らしいを通り越して恐ろしい気もしてくる。
現在のITと日本
アメリカが開発したOS「インスパイア」と日本が開発したOS「オリオン」は、「iOS」と「Android」のようにも思える。もっとも「Android」は日本が開発したものではないが。結果としてオープンソースとしての普及を目指したAndroidが市場のシェアを席巻するに至った。その意味では半田の予言は当たっていたということになるだろう。
現在のIT環境を眺めてみると、20年弱で情勢はすっかり変わってしまい、本作品や『ゼロ・エミッション 排ガスゼロ』のような「日本が誇る技術」というものがすっかり影を潜めてしまった。しかし、このような時代の変化を比較するのも、長期連載を続けているゴルゴ13ならではの楽しみ方ではないだろうか。ゴルゴへの依頼者である杉原会長が、現在の日本を見てどう思っているのか、ぜひ聞いてみたいところだ。
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秋山 輝
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