この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第172巻収録。旧東ドイツ時代、KGBと一心同体だった秘密警察シュタージに協力していたスパイたち。そのスパイたちの名前が記された極秘文書「Sファイル」が流出した。このなかには今や新ドイツ連邦で、元スパイの身分を隠している政府要人の名前も含まれていたため……。脚本:ながいみちのり
スポンサーリンク
正体を暴かれた卑劣なカモメ
「チャイカ(カモメ)」というロシア語がストーリーの鍵を握る。チャイカと言えばソ連時代、世界初の女性宇宙飛行士が「ヤーチャイカ・私はカモメ」の交信を思い出す。彼女は帰還した際、身体データ測定前に、村の人々が用意したご馳走をばくばく食べてしまい、大目玉を喰ったらしいが、気持ちはわかる。
このチャイカはそんなお気楽な存在ではない。パンドラの箱が開いたように、その名を記したファイルを手にした者は、次々に非業の死を遂げる。心ある善良な人々までも巻き込んだ厄災の連鎖を断ち切るべく、ゴルゴの銃口が怒りの火を噴く。
様変わりした銀行強盗とデータの持ち出し
かつての大泥棒達は「昔は銀行の地下にトンネル掘ったり現金の輸送に知恵を絞ったりしたもんだが、なんでえ、最近のヤツラは指先一つで大金をせしめてやがる。盗人の風上にもおけねえ」などと嘆いているだろう。データも同様である。
かつて企業の顧客名簿やデータをすべて盗み出そうとすれば膨大な時間が必要で、運び出しはまさに空き巣のような格好になった。シュタージの協力者名簿が貨車3編成分とは腰を抜かすような分量だが、たった30数年後の現在は極小の記憶媒体数枚に収まることを考えると、あの苦労は何だったのかと思う。
国民に不幸を招く独裁体制
政治信条を問わず、国民が不幸になるのは独裁化である。独裁者はシュタージのような諜報組織を利用して秘密を探り、脅しによって意のままに人々を操るきわめて利己的な人間だからだ。
『安全地帯の亡霊』のギュンター同様、西側で過去を隠して生きているこのような機関の手先たちは、ナチスの残党同様、常に怯えながら日々を送らねばならないのは当然の報いだろう。腹の中どころか爪の先まで真っ黒に汚れた東ドイツの残骸を掃除したゴルゴからは「まったく、ドイツもコイツも」と、寒すぎるおやじギャグのようなつぶやきが聞こえてくる。
この作品が読める書籍はこちら
野原 圭
最新記事 by 野原 圭 (全て見る)
- ゴルゴ13:増刊第100話『獣の爪を折れ』のみどころ - 2024年8月18日
- ゴルゴ13:第485話『欲望の輪廻転生』のみどころ - 2024年7月30日
- ゴルゴ13:第520話『未病』のみどころ - 2024年7月29日