簡単なあらすじ
SPコミックス第118巻収録。大戦中、ナチス総統・ヒトラーのお抱えカメラマンだったエレーナ。彼女はヒトラーを至上の被写体として崇拝し追い求めてきた。戦後50年が経過し、すでにヒトラーを超える被写体は存在しないと諦めていたエレーナだが、ゴルゴの評判を耳にしカメラマン魂が再燃。偽の依頼でゴルゴをおびき寄せるが……。
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超ワガママなオバサマ監督は実在の人物
映画監督は滅茶苦茶ワガママな人が多い。あの黒沢明もかつて「黒沢天皇」と呼ばれ、彼の要求には絶対服従といわれていた。その黒沢も顔負けのワガママ監督エレーナには、実在のモデルがいると思われる。ナチ政権下で開催されたベルリンオリンピックの記録映画「民族の祭典」を撮り、ヒトラーの愛人ともいわれたレニ・リーフェンシュタールである。
戦後も、映像制作への意欲は衰えることなく、高齢になってから医者の制止もきかずにダイビングの資格を取ったという逸話もあり、そのあたりをきちんと作画に生かしているのはさすがである。

脇役も見逃せない芸達者ぞろい
渦巻く野心や欲望に支配されたアクの強い人物ばかり登場し、互いに欺きあう展開の中、銃砲店のダメ亭主がいい味を出している。ゴルゴを見ても我関せずにぼーっと新聞を読み続けられる人間はそう多くない。
ゴルゴの特注弾丸は何を撃つのかという疑問に「鎧をきたウサギでも撃つんじゃないの」というボケぶりや「私ならこのぐうたら亭主を撃つ」という奥さんには笑った。
同じく映画をテーマにした『ダブル・ミーニング』にでてくるお金持ちのお坊ちゃまCIA職員など、脇役の存在感も印象深く、後に記憶に残っているのは、案外彼らなのである。
微笑みは破滅へのプロローグ
エレーナは優れた監督ではあっても、女優ではなかった。これが彼女の最大のミスである。苦労の末、ゴルゴとコンタクトを取り、会見に成功したとき、あまりの嬉しさに微笑んでしまう。
ゴルゴが「あんたが俺への依頼の前に笑顔をみせられる女だというのはわかった」というが、確かにゴルゴへ依頼するときは、皆、万策尽きてどうしようもないので泣きついているか、恨み骨髄、のどちらかのケースばかりだ。「笑う」というゆとりある行為などあるはずもない。まさに「蟻の一穴」から、彼女の完璧な計画は大きく崩れ去っていったのだ。

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野原 圭

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