この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第118巻収録。クルド民族のゲリラ司令部から、多くの同胞を虐殺したイラク軍司令官アマドの抹殺依頼をうけたゴルゴ。クルド民族の歴戦の勇士で、「獅子」の異名で称えられた老師ゼパリは、ゴルゴをサポートするべく行動を共にする。ゴルゴから拒否されようとも諦めないゼパリ。彼の本当の目的は、隠された過去に関係しているのだった……。脚本:ながいみちのり
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英雄と祭り上げられた男の哀しい物語
誰でも一度は名声を得たいと思うことがあるだろう。しかし、名声が一人歩きして虚像と化し、自分でコントロールできないほど実像とかけ離れてしまうと、もはや苦悩しかなくなる。これは、英雄と祭り上げられてしまったゆえに、自らの虚像に導かれるように、破滅への道を歩んだ男・バゼリの哀しい物語である。
イラクを舞台にした話の中でも『アム・シャラーの砲身』のようにメカニックな内容とは対極の、民族抗争を背景にした、ヒューマン・ドラマである。虚像と実像のギャップという、多かれ少なかれ誰もが持つ普遍的なテーマに、胸打たれてしまう。
「臆病であること」と「臆病者」の違い
ゴルゴシリーズは美術品関連の作品『戦場に漁る者』など、物品関連の緻密な絵も楽しみのひとつだが、これは老獅子・バゼリの表情がすばらしい。特に激しい拷問を想像したときの怯えた表情には、こちらもおもわず恐ろしさを想像して震え上がってしまう。
そのバゼリをゴルゴは「臆病者」と断じるが、ゴルゴ自身「自分が今日まで生き残っているのはウサギのように臆病さを持ち合わせているからだ」と言い、臆病ゆえに、ゴルゴはあらゆる逃走手段を用意している。ゴルゴのいう「臆病者」とは、自らの臆病から目を背け誤魔化し続ける者を意味するのだ。
舞台化ゴルゴ13の主役は誰だ
俳優の丹波哲郎はセリフの少なさで出演を決めていた、という噂がある。主役にもかかわらず、出番やセリフの少なさではゴルゴは丹波氏の比ではない。極端な場合、前編には最後に顔だけ見せる、ということもある。アニメの吹き替えをしている館ひろしもセリフの短さや少なさに苦労したと言っている。
しかし、場面転換の少なさやゴルゴとバゼリの会話が中心の今作は、舞台化が可能な数少ない作品といえる。配役だが、バゼリには田中泯、そしてゴルゴには、かつて映画化の際にさいとう氏自らご指名の高倉健亡き今、一体誰がふさわしいだろうか。
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野原 圭
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