この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第89巻収録。2大銀行の合併によって屈指のメガバンクとなった「やまと銀行」。会長に就任した坂本には、経営理念をめぐって敵対勢力の陰謀が渦巻く。米政府、元日銀総裁、大手銀行グループなど、坂本を「出る杭」とみなす勢力との息詰まる頭脳戦を描く傑作エピソード。脚本:静夢
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昔は魅力が判らなかったエピソード
『BEST BANK』を初めて読んだのは、まだ高校生の頃だったと記憶している。その時の感想は正直に言って「ゴルゴなのに面白くないな」だった。読んだ時期は2000年前半。TVドラマ『半沢直樹』は原作も世に出ていない頃で、銀行や金融界へのイメージすら湧かなかった。
そうでなくても世の中に興味が薄い女子高校生にとって、このエピソードは老獪な爺とサラリーマンがただ話をしているだけという印象だった。しかし逆に面白さが判らなかったがために印象に残っていたのだから、人間の脳は不思議だと思う。10年以上経ち、社会人として経験を積んだ後に改めて読んでこのエピソードの静かながらダイナミックな魅力に気が付かされた。

ゴルゴの狙撃もいつも通りの神業
このエピソードではゴルゴの登場シーンが少なく、狙撃自体も特に苦労や工夫が描かれているわけでないので、一見するとゴルゴの存在感が薄く思える。しかし首都高速を走る車の前輪を打ち抜くなんて芸当、普通は不可能だ。ゴルゴはどんなミッションを淡々とこなすので、つい簡単な狙撃に見えてしまう。
ゴルゴに依頼するというのはコンビニで買い物をするようなものでは当然ない。依頼自体にリスクがある。わざわざ危険を冒し、通常では考えられないような報酬を払わなければならないほどの状況だ。ゴルゴのミッションはゴルゴにしかできないから依頼されたものだ。しかしプロフェッショナルらしい仕事ほど一般人には簡単に映るものなのかもしれない。
背景を知れば知るほど面白い
銀行の合併は令和の今となってはもう見慣れたものだが、1996年の三菱銀行と東京銀行の合併、メガバンク誕生は世に大きな衝撃を与えた。このBESTBANKというエピソードは1993年に公開されている。言うまでもなく作中の銀行2行は現実の銀行をモデルにしたものだ。
実はエピソードは現役銀行員が持ち込んだものだという。作者すら「描いていて『ここまで描いていいのか』と思った」と語っている。ゴルゴが大活躍というエピソードではないのであまり人気が高いとはお世辞にも言えないこのBESTBANKだ。しかしエピソードの時代背景を知っていくと、かの『2万5千年の荒野』『病原体・レベル4』のような静かな興奮を覚えるのではないか。

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大科 友美

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