この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第158巻収録。イラクへの愛国をめぐり、ある兄弟の数奇な運命を描く。イラクからフランスに亡命したアッバスは、ある日、アリババと名乗る武器商人から高額な取引を持ち掛けられる。じつはアリババの正体は、生き分けれになっていた弟のカメルだったのだが……。脚本:広幡江介
スポンサーリンク
文化財返還問題という戦争の爪痕
イラク戦争に伴う文化財の流出に焦点を当てた本話。戦争に文化財の略奪は付き物であり、作中でも語られているように、イラクでも多数の貴重な美術品や文化遺産が被害に遭っている。本話から10年を経た2014年には、イスラム国による文化財の略奪・流出も問題となった。
2021年には、アメリカに不正に持ち込まれていた約1万7000点の考古文化財がイラク政府に返還され(※)、流出文化財返還の重要な先例となったが、欧米各地には植民地時代に各地から持ち出された多くの文化財が今も残っている。その全てが故郷に返される日は程遠いだろう。

ゴルゴに銃口を向けた営業レディの末路
美女には裏の顔があるのも本作のお約束。ユネスコ職員の身分を隠れ蓑として、武器業者の「営業レディ」として暗躍するシモーヌも、したたかな悪女ぶりが光るキャラクターだ。兵士相手にも臆せず銃を向け、ゴルゴをも正面から始末しようとする豪胆さには恐れ入るが、案の定、軽くいなされお陀仏となる。
ゴルゴは最初から彼女の不審さに気付いていたようで、「自分が相手に”裏”のにおいを感じた時は、相手も同じように感じている。と、思うべきだ……」という彼の言葉は印象的だ。濡れ場の一つも見せずに退場するには惜しい人物だったかもしれない。
真の愛国を巡る兄弟の悲痛なすれ違い
イラクの文化財の保護に心血を注ぐアッバスと、盗賊団のリーダーとなっていたカメル。生き別れの兄弟は本話の終盤で再会を果たすが、二人は最後まで分かり合うことができないまま、カメルはゴルゴの狙撃に倒れることとなる。
「また私を捨てたんだな……」と兄を恨んで死んでいく弟と、その誤解を正すことさえできない兄の悲痛な叫びは痛ましい。悪事に手を染めてはいても、「イラクをイラク人の手に取り戻す」というカメルの大義に偽りはなかったのだろう。ナレーションで綴られるアッバスの辞職も、弟の最期に思うところがあったからに違いない……。
※出典:AFPBB News「米、違法に持ち込まれた文化財をイラクに返還 1万7000点」(2021年8月4日)

この作品が読める書籍はこちら

東郷 嘉博

最新記事 by 東郷 嘉博 (全て見る)
- ゴルゴ13:第536話『神の鉄槌』のみどころ - 2024年9月19日
- ゴルゴ13:第552話『受難の帰日』のみどころ - 2024年9月19日
- ゴルゴ13:第535話『森と湖の国の銃』のみどころ - 2024年9月19日