この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第180巻収録。シシリアン・マフィアの大ボス、ゼウス。彼には共に開発した金鉱山の権利を独り占めするため、相棒を罠にかけ破滅させた過去がある。二十年後、その相棒から手紙が送られてくる。その手紙には「お前を始末するために、ゴルゴ13を雇った」と書いてあった……。脚本:ながいみちのり
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短編に込められたギリシャ人マフィアの一代記
本話に登場するマフィアのボス・ゼウスは、その名前が物語るように、ギリシャ出身というシシリアン・マフィアには異色の出自の持ち主。ギリシャ系のシシリアン・マフィアの実例は思い至らないが、海を挟んだカラブリア州を拠点とする犯罪組織・ンドランゲタはギリシャ人にルーツを持つようなので、その辺りに着想を得た設定だろうか。
「天涯孤独」と言っているからには実の親子ではないと思われるが、幹部のニキとヨアニスもギリシャ系の名前であり、同胞を集めて組織を拡大していった過去がうかがえる。短いページ数で多くの背景を想像させる名短編だ。
死の運命を演出に利用するボスの胆力
ゴルゴに狙われていることを知ったゼウスが、人生最後の身の振り方を思案する場面から始まる本話。ゴルゴから逃れようとする標的も多い中、避けられない死の運命を「一世一代の大舞台」に利用してみせる胆力は流石の一言で、マフィアのボスにまで上り詰めた器を感じさせる。
依頼人の方も、制裁を覚悟でゴルゴの掟を破り、ゼウスに死の運命を告げる復讐心は印象的だが、息子のニコラオスがゼウスの元に引き取られていることは知らないままだったと見える。一種の罪滅ぼしとも言えるその行動を彼が知っていれば、互いに違った結末もあったのだろうか。
ボスから愛されていた「坊や」の成長譚
およそ組織の跡継ぎに相応しいとは思えなかった若者が、死線を経てボスの器と認められる――というのは、裏社会を描いた物語の王道の筋書きだが、本話のもう一人の主役と言えるニコラオスも、まさにそうした出世譚の主役といえる。
他の幹部やボディガードからも「坊や」と侮られていた彼が、ラストでは立派な「ボスの風貌」に成長しているのは感慨深い。ゼウスは生前から「お前はいい加減だが、ズルくはない」と彼を認めるような言葉を述べており、かつての相棒の忘れ形見だからというだけでなく、本人の人柄を見た上で目をかけていたのだろう……。
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東郷 嘉博
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