この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第133巻収録。製薬会社US.メディシン社は天才的脳医学者・マコーマーと提携し、画期的な新薬の開発に成功する。メディシン社はこの成功をよく思わない勢力がゴルゴを雇い、社長のフーバーもしくはマコーマーの命を狙っているという情報を入手。マコーマーは「ゴルゴ13」の名前を聞いて、忌まわしい過去の記憶を蘇らせる……。脚本:国分康一
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記憶は捨て去ることができない荷物
記憶とはやっかいなものだ。短期記憶は脳の海馬に長期記憶は大脳皮質に保管される。書類を机の上に置くか押入にしまい込むか、という感じだが「忘れる」とは押入の書類を机に持ってこられないということであり、記憶そのものを失うことはない。
だから大脳を直接刺激する香りや、脳梗塞などのショックにより、突然記憶が蘇ることが起きる。デビッドも父親の厳命によりゴルゴの記憶を大脳皮質に閉じこめたが、脳をコントロールできない睡眠中、夢に現れる記憶の断片に苛まれる。自分を救おうと努力する行為が破滅へと向かう皮肉な話である。
ため息がでる製薬業界の真っ黒な舞台裏
「薬」とは罪な存在である。人間は痛みを逃れ病気を治癒して健康で快適な生活を送りたい。製薬会社は、その根源的な欲求につけ込む悪魔のような存在でもある。「毒にも薬にもならない大衆薬」というセリフがあるが、それを裏付けるような話がある。
ある島で水虫の特効薬になる成分が発見されたが、結局秘密にされ、製品化されることはなかったという。理由は「こんなにすぐ効いてしまっては商売にならない。大衆薬は、治りそうで治らないように作らないと」ということらしい。こんなことなら、シャーマンの祈りの方がマシではないか。
人生は忘れたほうが幸せになれることもある
優れた記憶力は必ずしも幸せに結びつかない。小川洋子の小説『博士の愛した数式』の主人公は事故の後遺症のため記憶は80分間だけだ。さぞ不幸であろうと思うかもしれないが、喧嘩をしても80分後には忘れられるなら、歴史的な民族紛争も解決に向かうのではないか。
また、池波正太郎の小説『闇の狩人』では、記憶を失った武士が度々刺客に襲われるうちに、自分の過去はあまり良いものではなさそうだと考え、危険な過去を捨て去り「今」を新しく生き直すことを決意する。デビッドもこのように考えることができたなら、とも思ってしまう。
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野原 圭

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