簡単なあらすじ
SPコミックス第174巻収録。イタリアの政界・財界を巻き込んだ巨額の不正融資事件にからみ、首謀者である銀行の元頭取・カッシー二が自殺した。口封じで消されたと見た息子のロッコは独自に調査を開始。手掛かりは、父が最後に残した「アロゴン」という謎の言葉だった……。
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人は誰でも天使と悪魔を飼っている
酔って眠りこんだ終電車。気づけば車両には自分一人、ふと隣の座席を見ると厚揚げ大の封筒がある。何気なく覗いてみたら百万円の札束が。「誰かが困っているわ。届けましょう」天使が微笑み「誰もみてないよ、懐にいれな」悪魔が囁く。これで借金も返せるし鮨もたらふく食べられる、どうしたものか。
そこで登場するのが良心の化身「神」のはずなのに、その神の子が犯罪に手を貸しているのだからやりきれない。ゴルゴを悪魔のような男と評する者もいるが、聖なる者が悪魔に売った魂を悪魔の男が完膚なきまでに撃ち抜く鮮やかな幕切れである。

黒装束の下に隠されているものは
権威の可視化というのは恐ろしい。映画『天使にラブソングを』で、シスター姿のウーピー・ゴールドバーグの殺害を命令されたギャングたちが「シスターは撃てねえよ」と嘆く場面があるが、キャソックと呼ばれるあの黒い装束を見ただけで何となく恐れ入るような気持ちになるから不思議である。
しかしそれをいいことに、ゴルゴへの偽りの依頼により己の不始末を消そうとして制裁される『感謝の印』の司教やら松本清張の『黒い福音』では、黒服の下に良からぬ物を隠して密輸する輩もいるようだ。黒服の下も腹黒かったでは洒落にもならない。
“清く正しく美しく”わかっちゃいるけど難しい
白鳥を舞う美しいバレリーナのつま先は黒く堅くなり、ウエストは時に骨折するほど力強い男性のリフトで、できた痣だらけだという。美しきものの裏ほど過酷なのと同じくあまりに聖なるものを求めすぎればひずみもできる。
ある神父はバイオレンス系ハリウッド映画をみるのが趣味だというので驚いたら「神父だっていろいろありますから。これがカタルシス・心の浄化作用となっているのですよ」という言葉が返ってきたという。本作のような犯罪を防止し彼らの魂を救済するのはゴルゴシリーズの翻訳版を世界の聖職者に配布することかもしれない。

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野原 圭

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