この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第155巻収録。アメリカの単独主義に反旗を翻すべく、日銀副総裁の松岡は欧州中央銀行顧問・ルメールと結託して米国債の売却を画策する。これを知った大統領顧問のローズは松岡への警告として、ある狙撃をゴルゴに依頼する。ローズの思惑通り松岡は軍門に下るが、ローズも思わぬところでミスを犯してしまう……。
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ローズとタイス
本作はアメリカとヨーロッパ、日本の政治・経済の裏舞台を描いたものだ。日米の経済対立が舞台の作品には『東亜共同体』『オフサイド・トラップ』などがあるが、要は煮ても焼いても食えない魑魅魍魎たちがお互いを出し抜きあう、えげつない話である。
本作のキーとなる人物は、アメリカのローズ顧問だ。自らが正義で、あらゆる手段を駆使して自らの障害を排除している様は、アメリカという国のミニチュア版のように感じる。ローズに対抗心を燃やすのがタイス補佐官だ。モデルは明らかにブッシュ政権(息子)で補佐官・国務長官を務めたコンドリーザ・ライスだろう。ローズがなんでもありな手法を使うのに対して、タイスは明晰な頭脳で解決を図ろうとする秀才タイプだ。
しかし、タイスもローズを蹴落とすために、汚い手段に手を出す。ところがローズのほうが何枚も上手だった。明らかに図に乗っていたタイスが挫折するさまは若干爽快感もあるが、あまりにも打ちのめされているのでちょっとかわいそうにもなる。
アメリカという国
ローズとタイスは、まったくタイプの違う人間だが根底にあるものは驚くほど似ている。それは「アメリカこそ正義」という信念だ。ローズは、イラクに大量破壊兵器がないことを知りながら侵攻を認め、フセインの捕縛を「悪魔の退治」と呼んではばからない。タイスもタイスで、「私は正義と信念に基づいて交渉に臨んでおり、失敗なんてあり得ない」そうだ。どこからその自信が湧いてくるのだ? と思わずにはいられない。
EUのルメールや日本の松岡は、そんなアメリカの横暴さが許せず、なんとかしてアメリカに一泡吹かせてやろうとするのだが、ローズにコテンパンにされてしまうのであった。特に松岡がボコボコにされる様子は見ていてやるせない。しかもゴルゴの仕事によってだ。EUや日本も、もっと積極的にゴルゴに依頼すればよいのにと思うのは私だけだろうか。
本作で気になる存在は、タイス補佐官の秘書ゲーリーだ。タイスから懐刀とまでいわれるほど信頼を得ているが、実はローズが送り込んだスパイだ。誠実そうな外見をしているが、タイスがやられたのは彼の影響が大きく、ほかの登場人物に劣らず地味にエグい。やはりこういう世界には魑魅魍魎しか住めないことを実感したのであった。
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秋山 輝
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