この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第92巻収録。日本外務省の局長・長倉は、アジア各国からなる巨大経済ブロック「東亜共同体」の立ち上げを提唱する。しかしヨーロッパにECがあり、アジアにも東亜共同体ができれば、アメリカは孤立してしまうと考えたCIAは、長倉の計画を頓挫させるべく暗躍する。
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刻々と変わる世界の政治情勢
現在の日本においてロシアと中国と結んで……と話したら、よほどの左翼でもない限り笑い話になってしまう。しかし本作の発表された1991年には、あながち夢物語でもなかった。
メインに描かれている外務省の若手官僚である長倉局長は監視するアメリカ人の職員から、「あっちこっち飛び回られたんじゃあ、尾行するのも楽じゃないぜ」と思われるほどの働き者。その目的が新生ソ連と新しい民主中国と提携した東亜共同体にあると描かれている。ソ連はロシアになっても大差なく、民主中国など夢のまた夢と笑えるのも、約20年後に生きる自分達だからだろう。
暴発を思わせるゴルゴの狙撃
CIA高官のピーターから依頼を受けたゴルゴだが、「銃の使用に過敏症なところがある」な日本の土地柄を考えたピーターは、「射殺という証拠が、残らぬようにしてほしい」と頼む。
事故にみせかける依頼は『燃える氷塊』『ピンヘッド・シュート』など数多い。本作ではクレー射撃を趣味とする長倉が、射撃場で銃を操作している瞬間を狙って暴発を起こさせたように見かけている。もちろんゴルゴのスナイプ技術があってのもの。結果的に志半ばで死んだ長倉だが、死の直前までアジアの未来を考えていた点では幸せだったとも言えそうだ。
踊らされた二人のピエロ
と言うのは、物語の最後にどんでん返しが用意されているからだ。あえてここでは触れないが、ある種の罠に外務省の長倉局長、そしてCIAのピーターまでもが騙されたことになっている。
改めて読み返すと、長倉に忠告した政治家の含んだものの言いようだけでなく、ピーターと会っていた際のゴルゴにやたらと「……」が多いのが気になる。政治家は知っていたに違いない。おそらくゴルゴも何がしかの情報を得ていたのだろう。“ピエロ”と評された長倉だったが、ピーターも自らを“ピエロ”だったと覚る。ピーターが流す冷汗の冷たさは想像できるだろうか。
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研 修治
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