この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第160巻収録。戦後、反占領軍活動を目的として設立された「黒田機関」。総帥の黒田は、戦時中に共に金品強奪を行った東郷俊太郎に、意見の衝突から殺されてしまう。黒田機関の後継者・千絵は、数十年後にその事実を知り、東郷俊太郎の息子とされる”デューク東郷”に最強の刺客を差し向ける。
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ゴルゴ出生譚と思いきや
シリーズの中でも人気の高いゴルゴ出生譚と思いきや、謎解きはされないまま続編『亜細亜の遺産 その後』へ持ち越される。見事な肩透かしだ。
その他、戦後の混乱期に起きた謎だらけの下山事件や黒田機関の生んだ武術の天才江兄弟の登場など大風呂敷が広がるが、こちらも見事に肩透かしに会う。
なにしろ兄弟そろって類まれな才能を持つ江兄弟がゴルゴと死闘を繰り広げると思わせておいて、あまりにもあっけなくゴルゴに返り討ちに会うのだ。しかも、江兄弟の取った戦法がナナメ過ぎて頂けない。正攻法で真正面からぶつかってほしかった。
日本人の忘れた八徳の精神
上述のように肩透かしを喰らうエピソードであるが、日本人がすっかり忘れてしまった八徳(仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌)の精神が美しく描かれている。”義”や”忠”に生きる男たちと顔を見たことない父親に対する女主人の”孝”の精神。
黒田機関(道場)関係者の生きざま、生きる覚悟や潔さが美しく見事である。この見事さをもってして、黒田機関(道場)の創設者黒田も泉下で少しは浮かばれようというものだ。
蛇足ながら八徳は儒教の考え方だが、それをアレンジした孫文の八徳もある。だが日本で広く知られているのはオリジナルの方で、『南総里見八犬伝』の影響が大きいのではないか。
他にもあるゴルゴ出生譚
ゴルゴは何者なのか?この命題はゴルゴ読者にとって、最も大きな関心事のことであろう。過去何本ものゴルゴ出生譚が語られているので、ここでは3本紹介する。
黒田機関に似た”I機関”が登場する『日本人・東研作』、名作として名高い『芹沢家殺人事件』、スケールの大きい『すべて人民のもの』。どれも比較的早いうちに描かれている(今回紹介しなかったのものも)。
今後、出生譚を語ろうとするとゴルゴが登場して50年以上が経過しているのに、ゴルゴ自身が年齢を重ねない設定であることをクリアして語る必要が出てくる。日に日に難易度が高くなることを危惧せざるを得ない。
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片山 恵右
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